第四百二十二話 ありがとう
こちらを見る校長先生。全く、そういう事なら仕事にしなくても請け負ったのにと心の中で感謝の意を伝えます。
舞台の袖から姿を現すと、万雷の拍手が迎えてくれました。校長先生からマイクを受け取り、拍手が収まるのを待ってから話し出します。
「皆さんおはようございます、2年の北本遊です。この度はお騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした。また、ご尽力頂き本当にありがとうございました」
そこで一呼吸置きます。しわぶき一つ聞こえない体育館の中で、私の声が響きました。
「私は今回の裁判で素性を明かしました。これからマスコミの取材などで皆さんに迷惑をかけてしまうでしょう。こんな私ですが、受け入れて頂けますか?」
生徒達や先生達から「もちろん!」「当たり前よ!」「転校なんてしないで!」との叫び声があがりました。受け入れて貰える事をこうして伝えられると嬉しくなってしまいます。
「ありがとうございます。お礼になるかわかりませんが、私の歌を聞いてください」
友子が一曲目の曲をかけます。ロザリンドちゃんのイメージソングにして、私のデビュー曲です。
「感謝の心を込めて、『あなたと・・・』」
ここは私の居場所。友子が、校長先生が、クラスのみんなが。そして、直接顔を知らない先輩や同級生、後輩のみんなが作ってくれた場所。
ここならば、私は私でいられます。私が私である事を隠さなくても、普通に接してくれる人達が居ます。
「友子、衣装を!」
衣装の入った友子特製鞄を持った友子が駆け寄ります。友子は大きなシーツを出すと私に掛けました。間を置かずにシーツは取り払われましたが、その一瞬で衣装替えは済んでいました。
瞬く間にロザリンドちゃんの衣装へと着替えた私に、感嘆の声があがります。今日は、私が持つ全ての技能をもって盛り上げます!
「それじゃ、次の曲行くわよ!」
昼に終了の時間が来るまで、私は歌って喋り続けました。校長先生と私の感謝を込めたイベントは終了を惜しむ拍手の中で終わりの時を迎えたのです。
「遊、お疲れ様。いいライヴだったわよ」
「ありがとう。流石に少し疲れたわ」
舞台の袖に戻った私は疲労でへたりこんでしまいました。妙に心地よい疲労感に全身から力が抜けていきます。
「ねぇ、友子」
「なあに?」
「私、決心したわ」
その日から私は、髪留めと眼鏡を封印しました。




