内緒 第四十四話 家族の評価
そして火曜日。いつもの通りに登校した私は、昼休みになっても自分の席で突っ伏していました。
「遊、果ててるわね」
朝からずっと机に突っ伏している私。成績が学年首位であることと、進学先も決まっているため先生は何も言いませんでした。
果てている理由は、今日ラジオがアップされるからです。朝から由紀は「今日ユウリちゃんのラジオあるんだよ!」なんて嬉しそうに言うし、プレッシャーでどうにかなりそうです。
クラスでも何人かがその話題で盛り上がってるので、嫌が応にも意識してしまいます。
「全く、本人目の前にしてプレッシャーかける事言わないで欲しいわ」
「じゃあ、『ユウリちゃんがここに居ますよ』って教えて来ようか?」
友子は恐ろしい事を言い、息を吸い込むと叫びました。
「あのね、実はこムグッ!」
素早く友子の背後に回り、右手で口を塞ぎます。同時に左手で首を押さえ、呼吸をしにくくしました。
「友子、秘孔を突いて記憶を消すわよ?」
耳元で低い声で囁くと、友子は壊れた赤べこのように何度も首肯しました。民○書房刊、「君にも突ける経絡秘孔」読んでいたのが役に立ちました。
「友子、どうしたの?」
ラジオの話をしていた女子が、私達の様子を見て尋ねました。
「何でもないわよ」
まだ声を出せない友子の代わりに答えます。友子はひたすら首を縦に振っています。
「変なの。友子も今日アップのラジオ、楽しみにしてたわよね。一緒に話そ」
拘束を解くと、友子はフラフラと女子の輪に加わりました。話している最中にも私の方を窺っています。ユウリの正体をばらすような事を言わなければ、私は何もしないのにね。
「遊、早く帰ってラジオ聞きましょう!」
授業が終わると、友子はすぐに私の席に来ました。私は悶々としてるのに、友子はすごく楽しそうです。
「はぁ・・・とりあえず帰るわね」
重い足取りで学校を出ます。反対に隣の友子の足取りは軽く、
スキップでもしそうな雰囲気です。
「うちに来て一緒にラジオ聞かない?」
どちらかというと聞きたくありません。でも、聞かないわけにはいきません。どうせ聞かねばならぬなら、一人でこっそりと聞きたいです。
「真っ直ぐに帰るわ。聞くなら一人で聞きたいし」
「ま、仕方ないわね。じゃあ、また明日!」
心内を察してくれたのか、友子はあっさりと別れて帰って行きました。
これでひっそりと一人で聞ける。そう思い家に帰ると、それが叶わぬ願いであることを思い知らされました。
「お姉ちゃん、お帰りなさい!」
ドアを開けた途端、由紀が出迎えてくれました。まるで待ち伏せていたかのように上手いタイミングでした。
「ただいま。由紀、今日は早いのね」
「お姉ちゃんと一緒にラジオ聞こうと思って。聞かないで待ってたんだよ!」
妹の優しい心遣いに、お姉ちゃん涙出そうです。それが感謝や感動の涙ではないというのは細かい事なので追及してはいけません。
「とりあえず着替えてくるわ。リビングで待ってて」
「わかった。コーヒー入れてるね」
パタパタと駆け出す由紀。素直だし、基本姉思いだし、可愛い妹なのですが。あそこまで漫画・アニメ好きでなければ、と思うのは贅沢でしょうか。
私はため息をつきながら部屋に行き、部屋着に着替えます。ラジオは一人で聞きたかったのですが、こうなると無理でしょう。断るための言い訳を思い浮かべる事が出来ません。
「お姉ちゃん、コーヒー持ってきたから私の部屋に来てね!」
せめてもの抵抗に牛歩戦術を敢行していると、ドアの外から由紀の声がしました。
観念して由紀の部屋に行くと、すでに準備は整っていました。机のデスクトップパソコンにはラジオの再生画面が映っていて、床の折り畳み式テーブルに二人分のコーヒーが置いてあります。
「早く座って。さ、早く早く!」
満面の笑顔で催促する由紀。座布団に座り、コーヒーを一口飲みます。
「じゃあ、いくわよ!ポチッとな」
由紀はどこかで聞いた事のあるフレーズを言ってリターンキーを押し、ラジオを再生させます。
パソコンからオープニングの音楽が流れます。由紀はワクワクしていますが、私は気が気じゃありません。
番組が進み、私と蓮田さんの声が流れます。由紀は結構楽しそうに笑っていて、楽しんでもらうという点では合格のようです。
番組が終わりました。最後まで由紀の反応が良かったので、一先ず安心することが出来ました。
「面白かったわ。もう一回!」
「私は部屋に戻るわ」
始めから再生しようとしたので、私は飲み干したコーヒーのカップを持ち部屋を出ました。二度も妹の前で自分が出たラジオを再生されるなんて、とても耐えられません。
「遊、お帰りなさい。ラジオは聞いた?」
カップを洗おうとキッチンに向かうと、お母さんと鉢合わせしました。どうやら、お母さんもラジオを聞いたようです。
「由紀と一緒に聞いたわ。反応良かったからほっとしたわ」
「お母さんもお父さんと聞いたわ。面白かったわよ」
どうやら、家族の評価は悪くないようです。両親は兎も角由紀はパーソナリティーの片割れが私だと知らないので、その評価に掛け値は付いていないでしょう。
「ありがとう、次も頑張るわ」
「頑張ってね、応援してるわ」
お母さんはにっこりと微笑み私の頭を撫でると書斎へと戻って行きました。




