第四百十九話 変化した登校
その後は、いつもの日常に戻りました。普段は三ツ編みに眼鏡をしていますが、ユウリになる時だけそれを解きます。
あまり遊の姿をマスコミに晒さなかったので、遊の格好だと気付かない人も多いのです。
しかし気付く人はいるので、通学はタクシーを使っています。朝の電車には乗る事が出来ません。一度乗って後悔しました。囲まれて乗り過ごしましたから。
朝から登校できる日は、友子と合流してからタクシーを捕まえて乗っていきます。友子はマネージャー見習いになっているので、車内で打ち合わせを行う時もあります。
「遊、今日は午前中仕事になるわよ」
「えっ、聞いてないわ。今日は1日学校で大丈夫と言われてるわよ」
桶川さんとの連携も上手にこなす友子は桶川プロ内部の評判も良く、学校を卒業後は私の専属マネージャーになる事が決定しています。
「間違ってないわ。今日の仕事先は夏風高校だから」
「また依頼主が校長先生なのね。でも、今日はイベントは無いはずよ」
うちの高校は、始業式や終業式等のイベント時に声優さんを呼んでいます。しかし、今日はそういったイベントは予定されていなかった筈です。
「それはそうよ。今日のイベントは生徒や教師に秘密のユウリちゃんシークレットライブだから」
「お客さん、それ本当に?私も見に行っちゃダメですか!」
私達の会話をしっかりと聞いていた運転手さんが振り返ります。危ないのでちゃんと前を見て運転して下さい!
「ご免なさいね、在校生だけのイベントだから」
「それは残念だ。そう言えば、ユウリちゃんは夏風高校の生徒らしいね。それでかな」
運転手さんは私が夏風高校の生徒って知ってはいても私の素顔は知らないようです。
「遊、ちょっと・・・」
友子が意地悪そうな顔をして、耳許でゴニョゴニョと囁きました。私は呆れながらもその悪企みに乗る事にしました。
「お客さん、着きましたよ。1460円になりま・・・」
夏風高校裏門に到着し、振り返った運転手さんが止まりました。目をこれでもかと見開き、口は大きく開いたままになっています。
「ありがとうございます。はい、1460円です」
にっこりと営業スマイルを浮かべて微笑む私に、必死に笑いを堪える友子。運転手さんは固まったまま代金を受け取ろうとしません。
「運転手さん、どうかしましたか?」
理由が分かりきってるのに、知らないふりをする友子。なんて意地が悪いのでしょう。え、私?理由なんて分かりません。私はただ髪をほどいて眼鏡を外しただけです。
「料金は要りません、サインと握手をお願いします!」
「すいませんが、そういうのはお断りさせていただいています」
強引に料金を渡しタクシーから降ります。運転手さんは未練があるのか、走り出そうとしませんでしたが無視して学校へ入るのでした。




