第四百十六話 事件の全容と爪痕
「それじゃあお姉ちゃん、覚悟はいい?」
「大丈夫よ、すぐに気持ちよくなるから」
両手をワキワキさせて由紀とお母さんが迫ります。スペック的にも経験値的にも、お母さんより由紀の方が出し抜きやすいでしょう。
一旦左に体を沈めお母さんの脇を抜けると見せかけて、横に飛んで由紀の脇を抜けます。しかし抜けたと思った瞬間、体に重さを感じて動きが遅くなりました。
「甘いわよお姉ちゃん。私は一流選手のサーブを対処してるのよ?」
横を抜けた瞬間、由紀がおぶさっていました。背中にしっかりしがみついて、離れてくれません。私の妹は、何時から子泣き爺になったのでしょう?
「遊、諦めなさい。服はこの通り、大量に用意してるわよ」
壁に積まれた段ボールだけでなく、普通の旅行鞄から次々と吐き出されるコスプレ衣装の数々。深谷さんはどれだけ衣装を作ったのでしょうか。
「友子ちゃんに貰ったこの鞄、本当に便利ね」
「今ほど親友の不思議鞄を恨めしく思った事はないわ」
白ナース服、ピンクナース服、キャビンアテンダント、婦人警官、海軍第一種礼装にレースクイーン等々。底はないと思われた親友の不思議鞄でも入りきれない量の衣装に圧倒されてしまいます。
「流石は私の娘。何を着ても似合うわね」
「はうぅ、ユウリさんのコス写真集・・・これで10年は闘えるわ」
肌艶の良い二人と対照的に、私は白く燃え尽きました。そんな私と関係なしに、翌日から世間は大きく動きました。
まずは岩槻弁護士です。収賄と弁護士法違反の容疑で逮捕されると、あっさりと越谷ミュージックからの依頼を吐いたようです。
私達の情報を指定したマスコミに漏らし、裁判にて越谷ミュージック有利になるよう誘導するように言われたと自白したと報じられています。
次に裁判の時の検察官さんです。彼も越谷ミュージックから賄賂を渡され起訴状を偽造していました。名誉棄損なんて微妙な罪状で素早く起訴が出来た理由がこれだそうです。
この2人の自白により、越谷社長に逮捕状が出ました。贈賄に公文書偽造示唆、ついでに越谷ミュージック社屋の家宅捜査で有印私文書偽造の証拠も発見されたとか。
所属タレントとの契約を、会社が一方的に得するように偽造して酷使した上で不当な利益を貪っていました。これで越谷ミュージックはお先真っ暗です。到底存続出来ない状態になるでしょう。
でも、それで困るのが犯罪行為に何の関係も無かった社員の人達と所属タレントの皆さんです。そこで桶川社長が越谷ミュージックを買収し、桶川プロダクション音楽部へと再編しました。
所属していたタレントさんたちは全員雇用契約を白紙に戻した上で再契約を行い、望む人には他の事務所への移籍を斡旋しました。




