第四百十三話 こんな事もあろうかと
都内の車が多い道を北上します。マスコミは諦めずに追跡してきていて、徐々に間を詰められていました。このままでは追いつかれてしまいそうです。
「都内を抜けたから飛ばすわよ!」
「桶川さん、道路交通法を守ってとは言わないけど、せめて事故を起こさないようにして!」
せっかく名誉毀損の裁判が無罪になりそうなのに、桶川さんが危険運転致死で起訴なんて洒落になりません。
「わかってるわよ。大体、この車160kmしか出ないから大丈夫よ!」
「160km出たら十分ですよ!一体どれだけスピード出すつもりですか!」
日本の道路で、時速160km出せる道路はありません。国内でそこまで速度を出せる車を売る必要はあるのでしょうか?
なんてやりとりをしている隙に、マスコミの車が増殖していました。
「マスコミも気合い入れてきたわね」
「毎回撒いてるから、雪辱戦のつもりかしらね」
桶川さんは余裕ぶってますが、段々追い詰められてます。国道から外れ、細い道を曲がって行きます。細い道なのでマスコミの車が長い列を作っていました。
「桶川さん、回り込まれたわ!」
数に物をいわせて包囲する形に変えてきたマスコミに、前方を塞がれました。こうなると逃げ場はありません。大人しく取材を受けるしかないのでしょうか。
「大丈夫、これも予定調和のうちよ!」
ハンドルをきって入った道は、利根川の河原に続く未舗装の道でした。マスコミの車両も後に続き、半円の壁を作り包囲網が完成しました。
「追い詰めた!観念して取材を受けなさい!」
レポーターの女の人が、腰に手を当てて高笑いしています。周囲をマスコミに囲まれ、背後は利根川が流れていて逃げ場がありません。
「これで追い詰めたつもり?アカシアの蜂蜜に和三盆を溶かしたシロップよりも甘いわ!」
レポーターを笑い飛ばした桶川さんは、川に向かってアクセルを思い切り踏み込みました。当然、車は利根川の流れに入って行きます。
「なっ、血迷ったか!」
「警察と消防に連絡を!」
「2人を早く助けるぞ!」
沈む車から私と桶川さんを助けようと走るマスコミ陣。私達の乗った車はマスコミの予想通り沈んでいった・・・という事はなく、悠々と浮いていました。
「えっ、浮いてる?」
「こんな事もあろうかと、って奴よ。水上モード、オン!」
私達を乗せたスポーツカーは、モーターボートのように水上を滑っていきます。私はマスコミ同様訳が分からず呆然としてしまいました。
「あ、あれはアクアダか!」
「アクアダ?何だそりゃ?」
我に返り叫んだカメラマンに視線が集まりました。私も振り返りそのカメラマンを見てしまいます。
「あれはイギリスの水陸両用車だ。陸上160km、水上48kmで走れる高性能車だ!」
カメラマンの叫びで何故私達が無事なのかは知ることが出来ました。しかし桶川さん、いつの間にこんな車を用意したのですか?




