第四百十話 友子の激情
親友の勝利がほぼ確定した状態だというのに嬉しそうな顔を見せない友子を全員が注視する。もう誰もスマホが伝えるニュースを見てはいない。
「友子、あなたはこの事を知っていたのね?」
「私は遊の親友よ、知らない訳はないわ」
良子の問いに答える友子。彼女はクラスメイトの視線に殺気が篭っていても動じる事無く平然と答えた。
「じゃあ、一人でユウリさんを独占してたのか!」
「何で教えてくれなかったのよ!」
友子に詰め寄るクラスメイト達。周囲を固められ、逃げ場はなかった。最も、逃げ場があったとしても彼女は逃げるという選択肢を選ばなかったのだが。
「でも、これからは一緒なんだよな!」
「そうね、握手してもらったり、サインしてもらったり!」
「ロザリンドちゃんの声やってほしいなぁ!」
「夢がひろがりんぐ!」
声優ユウリと毎日会える、その夢に浮かれる生徒達だったがすぐに水を差される事となる。
「それは、無理ね」
友子がボソッと言った一言にピタリと声が止んだ。そして生徒達は発言した主である友子を一斉に睨みつける。
「友子、それはどうして?」
「私が遊に転校を勧めるからよ」
明日からユウリと机を並べる事が出来る。色々な事をやってもらえる。そんな夢を抱いたクラスメイト達は、それを阻止すると言った友子に怒り狂う。
「私達の楽しみを奪うつもり?」
「自分だけユウリさんと親しければ良いって言うのかよ!」
クラス全員からの吊し上げにも友子は怯まない。それどころか、怒りの感情を隠すこと無く大声で反論した。
「あなた達、遊の家族を知った時どうしたかしら?遊はどんな反応を返したかしら?」
以前遊の家族が有名小説家であり、有名イラストレーターであり、テニスの有名プレイヤーだと知った時。クラスメイトはサインや試合を望み、遊に一喝されている。
「何故遊が正体を隠してきたと思うの?有名になることで平穏な暮らしが出来なくなると知っていたからよ!」
かつて自分達が遊に言われた事を思いだして黙るクラスメイト達。流石に自らの行いを無かった事にして言い返す度胸は無かったようだ。
「あの子は今回の裁判で正体を明かした。一年間守ってきた平穏な生活を捨てざるを得なかったのよ。それに追い討ちをかけるような人を私は許さないわ」
「そっか、遊は有名になんてなるものじゃない。そう言ってたわね」
里美が呟いた言葉に、皆は遊が抱いていた望みを思い出した。そして自分達が思うままに遊に接する事がどのような思いを遊にさせるのかと考える。
「そうよ里美、遊は普通の女子高生でいることを望んでいるの。だから、それが出来ないなら転校を勧めるわ」
友子が憂いていたのは親友に転校を勧めなければならなかったから。離れたくない親友と離れる決断をしなければならなかったから。
そこに思い至った生徒達は自らの言動を心から恥じるのであった。




