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第四十三話 話せぬ悩み

 友子が帰った後、まだ夕食まで時間があるので部屋に戻ります。ベッドに寝転がり台本を読みましたが、集中出来ずすぐに閉じました。


 台本をしまい、ベッドに寝転びます。そこでふと思いました。何でこんなに気になるのでしょう。

 今までやった習い事は、不安になる事などありませんでした。

 それらとの違いを考えると、これが仕事だからだと思い付きました。


「・・・ちゃ・・・ちゃん!」


 誰かの声がします。聞き覚えのある声が、私を呼んでいるようです。


「お姉ちゃん、寝てるの?」


 どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたようです。あのまま台本を手にしていたら・・・寝る前の私をグッジョブと褒め称えたくなりました。


「由紀、いつの間に?」


「ずっと呼んでたのに気付かないんだもん。ご飯よ」


 呆れた声で答えられ、反射的に時計を見ます。普段ならばもう食事をとっている時間でした。ベッドから起き上がり、由紀とリビングへ移動します。


「お姉ちゃん、何か悩み事?」


「ちょっとね。大丈夫よ、すぐに解決するから」


 心配そうに聞いてきた由紀に、落ち着いた声で答えます。結果はどうあれ、遅くとも水曜日にはこの悩みは消えるのです。

 心配してくれる妹にそれを言えないのは心苦しいですが、打ち明けた後のことを考えるとどうしても躊躇われます。


「私に出来る事があったら言ってね」


 打算で隠し事をしている姉に対し、無償の好意で気遣う妹。私の中で良心が凄い勢いで削られていきました。それでも、私は秘密を話す事をしませんでした。

 由紀が姉を気遣う優しい妹であるのは間違いないのですが、趣味が絡めば気遣いのきの字すら消え失せると身をもって知っているからでした。


 リビングに行くと、両親はすでに着席していました。私と由紀も席に着きます。


「どうしたんだ?遅かったな」


「お姉ちゃんがボーッとしてて、なかなか動いてくれなかったの。何か悩みでもあるんじゃないかな?」


 由紀は、私が悩みを話さないので両親に話を振りました。趣味が絡まなければ、本当に優しいいい子なのですが。暴走した時の残念さが、それを上回って余りあるのが本当に悔やまれます。


「遊にも色々あるのよ。そのうち由紀にもわかるわ。さ、冷めないうちに食べましょ」


 お母さんに促され、食事をはじめます。若い頃各国を巡ったというお母さんの料理は多彩で、味も文句の付け所がありません。


「遊、あまり由紀に心配させるなよ」


「わかってるわ。水曜日には解決するから」


 私とお父さんの会話を聞いて、由紀が身を乗り出してきました。


「お父さん、お姉ちゃんの悩みを知ってるの?もしかしてお母さんも?」


「具体的には知らない。しかし、学校関連あたりだろう?由紀も来年にはわかるさ」


 お父さんは上手くはぐらかします。お父さんが私の悩みを具体的に知らないのも本当ですし、学校関連と言っているのは単なる予測なので外れていても仕方ありません。


 多少不満はありそうでしたが、何とか納得させられた由紀はお風呂へ行きました。


「お父さん、ありがとう」


「フォローはするが、できるだけ早く教えてあげなさい」


「わかってるんだけどね。まだ決心が出来なくて・・・」


 お父さんお母さんは苦笑いして、それ以上由紀の事を言いませんでした。

 売れっ子ラノベ作家のお父さんとそのイラストを書いているお母さんは、由紀の同胞とサイン会等で会う機会もあります。なので、打ち明けた後の事が容易く想像出来るのでしょう。


「悩みはラジオの事かしら?」


「ええ。どうしようも無いのはわかってるけど・・・」


 それでも、気になってしまうのです。分かっちゃいるけど止められないという名言が頭を過りました。


「頭でわかっていても、心が納得しない?」


 お母さんに図星を指され、思わず顔を見ます。お母さんは、微笑み私の頭を優しく撫でました。


「正解みたいね。良いことだわ」


「今まではこんな事無かったのに。何でこんな気持ちになるの?こんな不安初めてだわ」


 私の気持ちがわかったと言うことは、お父さんとお母さんもこうなった事があったのでしょうか。


「その答えは自分で見つけなさい。だが、悪い事じゃない。だから安心して悩みなさい」


 そう言うと二人は部屋に戻ってしまいました。安心して悩めと言われても困ります。でも、少し心が軽くなった気がしました。

 お父さんとお母さんが通った道ならば、間違えてないと思うから。


「お姉ちゃん、お風呂出たよ」


「じゃあ、私も入るわ」


 着替えを取りに行こうと出口に向かうと、そこに立っていた由紀が驚きを露に私を見つめました。


「お姉ちゃん、悩みは解決したの?」


「まだよ。でも、開き直ったから」


 由紀は安心したような顔をしましたが、すぐにニヤリと笑うと余計な一言を放ちました。


「そっか。悩んでるお姉ちゃんはお姉ちゃんらしくないよ?」


「それは、私が悩みの無い極楽トンボと言うこと?」


「当たり。その通りでしょ?」


 笑いながら逃げ出す由紀。私は一応怒りはしましたが、追いかけるつもりはありません。


「まったく・・・お陰で元気出たわ。ありがとう」


 不器用な応援をする妹に、届かぬ事を承知でお礼を言いました。

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