第四百ハ話 夏風高校では
さて、少し時間は遡り、初公判前の夏風高校。遊のクラスではまともに授業がされていなかった。
「あなたたち、授業中にスマホを見てはいけません!」
教室にいる殆どの生徒が机の影でスマホを見ていたのだ。それぞれチャンネルはまばらであったが、共通するのは裁判の様子を伝える番組であることだった。
「先生、北本さんが裁判にかけられるんですよ?それを気にしない薄情な者はこのクラスにいません!」
里美が毅然と反論し、クラスメートがそれを肯定する。多数決では教師に勝ち目は存在しなかった。
「あらあら、北本さんの親友である岡部さんは違うみたいだけど?」
先生の指摘した通り、友子だけはスマホで報道をを見ていなかった。クラスの全員がそれを訝しんだ。
「友子、遊が心配じゃないの?」
「全然。100パー勝つとわかってる裁判に、一体何を心配するのよ!」
友子の絶対的な自信に教師が首をかしげる。教え子の裁判ということで、彼女も裁判について少しは調べていたのだ。
「名誉毀損の裁判なんて、完全な証明は不可能よ。どうして言い切れるの?」
「それは裁判が終わればわかるわ。遊の無実は完全に証明されるから」
友子は頑として理由を告げようとはしなかった。もうすぐ知れ渡るとはいえ、親友の重大な秘密を自分の口から言う気にはならなかったのだ。
「岡部さん、北本さんを信じてるのね」
「親友は伊達ではないというところかしら」
遊を信じきっていると誤解したクラスメートは感動を隠せない。実際は遊が正体を明かす事を伝えられているため、負けようがない事を知っているからの余裕なのだが。
「親友を信じる、この心は美しいわ。でもね、裁判は一筋縄ではいかないのよ。ましてや名誉毀損なんて無実の証明はやりようがないわ」
純粋に感動する生徒と違い、冷静な意見を投げる教師。社会に出ている大人は一味違う。しかし、それに対する返答をする前に爆弾が投げ込まれた。
「大変なニュースが入りました!先ほど裁判長により開廷が宣言されましたが、開廷してすぐに被告が国選弁護士を解任しました!」
隠す必要がなくなった為、音量を上げていたスマホから衝撃のニュースが流れる。それは常識では到底考えられない事象を伝える物だった。
「それって、弁護士を抜きで裁判やるって事?」
「そんな事出来るのか?」
「弁護士が居なかったら、誰が『異義ありっ!』て叫ぶんだよ?」
自らを不利にする遊の行動に、一人を除いて教室内は混乱する。社会経験の無い学生ですら無謀な行動だと認識出来る行為が行われたのだから無理もない。
「落ち着いて、これは予定されていた行動よ!」
友子の叫びに教室は静まり返る。詳しい事情を知っているだろう友子に教室中の視線が集められた。




