第四百七話 完全勝利
「「「な、なんだって~!」」」
検察官、弁護士、裁判長に傍聴人。法廷内に居る人達は一人残らず驚いてくれました。予想通りの反応に私は大満足です。
「岩槻弁護士、これが私のした『変装』です。この1年と少しの間、気付いた人は誰一人いませんでしたよ?」
岩槻弁護士からの返事はありません。ただの脱け殻のようです。
「越谷社長、あなたの尊大さはこの目で見ています。移籍なんて絶対にしませんよ」
大口を開けて固まる越谷社長。そんなに口を開けていては虫が入りますよ?
「検察官さん、北本遊がユウリと口裏を合わせる事は絶対に不可能なのですよ」
私を指差したまま固まっている検察官。人を指差してはいけませんと習わなかったのでしょうか?
「裁判長、人は自分に嘘をつけません。だから私が私に悪評を騙る事は出来ません」
「ほ・・・本物、ですか?」
裁判長は目の前で変わったのに信じきれてはいないようです。ただ似ているだけだとと考えたのでしょうか
「北本遊の声とユウリの声紋照合をすれば証明出来ますよ。以前に警視庁科学捜査班の人がそれを行い処分されてます」
あの時のデータを警視庁から取り寄せれば警察の御墨付きで証明されます。ユウリの音声データなど幾らでもありますし、改めて照合することも容易いでしょう。
「被告人は誹謗中傷を声優ユウリに言っていないとわかっていただけましたか?」
「・・・本人なのだから、嘘をつきようがない」
「私は私の判断で移籍を断りました。それが法に抵触するのでしょうか?」
検察官さん、顔が真っ青ですね。これではどう頑張っても有罪には出来ないでしょうから。
驚きから回復した傍聴席の方々がざわめき始めました。扉が開く音もしたので、北本遊がユウリだというニュースがすぐに飛び交うでしょう。
「静粛に、静粛に!」
裁判長がハンマーを叩き傍聴席の面々を静かにさせます。次第に声は少なくなり、裁判長さんが閉廷を宣告しました。
「本日ははこれで閉廷、判決は後日の結審にて言い渡されます。・・・無罪以外はあり得ないですけどね」
裁判長さん、最後の呟き、しっかりと聞こえてます。かなりお疲れのご様子ですが、判定に難しい判断は必要無いと思われるのでその点は楽な案件ではないでしょうか。
閉廷に伴い、マスコミの方々は我先にと飛び出していく。一秒でも早くこの顛末を伝えようと必死です。私は衛士の人に左右を守られて控え室に退出しました。
「外はマスコミが山盛りです。ユウリさん、このままでは外に出られませんよ?」
「ありがとうございます。まあ、何とか逃げおおせますよ」
忠告してくれた衛士さんにお礼と握手をして、控え室で一休みさせてもらいます。
「お、俺ユウリさんと握手しちまったぜ!この手は一生洗えない!」
衛士さん、ちゃんと手は洗いましょう。他の衛士さんも羨ましそうな目で見ないで下さい。




