第四百四話 まずは1勝
「そんな子供染みた言い訳、通用するとお思いですか?ちなみにこの録音、周囲に人がいる場所での事ですから強要されたと言うことも出来ませんよ?」
次に言いそうな言い訳を事前に潰しておきます。その為に人目のある喫茶店を選んだのです。
「それに岩槻弁護士、あなた一部のマスコミに私と会うことをリークしましたね?」
「そんな事はしない!お前か母親が尾行されたんだろう!」
あらあら、自分が弁護すべき被告に対してお前と言い出しました。体裁を取り繕う余裕すら無くなってきたようです。
「お母さんは途中自衛隊練馬駐屯地を経由したので尾行は不可能でした。私は絶対に見破られない変装をしたので、これまた尾行出来ません」
私の変装を見抜く、つまりユウリ=北本遊だと気付いた人はこれまで存在しません。なので私を尾行してあの喫茶店で張る事は不可能です。
「それなのにマスコミに追われました。しかも、全員越谷ミュージック寄りの報道をする会社ばかりです。因みに、マスコミの尾行と所属会社の調査は各国の情報部の皆さんが協力してくれました」
お陰であの日来たマスコミは全て調べてあります。お母さんの友人達には本当に感謝してます。いずれ各機関に恩返しをやりに行きましょう。
「さて、私がこのギリギリまで岩槻弁護士を解任しなかった理由はわかっていただけましたか?」
見回すと、岩槻弁護士と越谷ミュージックの女社長が親の仇を見るような目で睨んでいます。しかし、そんな程度で臆する私ではありません。
「越谷ミュージックと繋がっている岩槻弁護士を早くに解任すれば、それが越谷ミュージックに漏れてしまいますから。今ならば小細工も出来ませんからね」
「冤罪だ!お前の下手な変装が見破られて尾行されただけだろ!」
おやおや、往生際の悪い事です。もしも解任しなくても、あなたのやる仕事なんて何一つ無いのです。
「一年近く、誰にもバレなかった変装です。まあ、それは置いておきます。裁判長、岩槻弁護士の解任と発言権の剥奪を許可していただけますか?」
「被告を擁護すべき弁護士が、原告と繋がっているとは由々しき事態であります。岩槻弁護士はこの場での発言を認めません」
裁判長は私の言い分を全面的に認めてくれました。これで鬱陶しい岩槻弁護士を封じる事が出来ます。それに、越谷ミュージック側が汚い工作をしていた事実を暴露したのであちらの主張に皆が疑問をもつでしょう。
「さて、出だしから波乱の開廷となったが続けます。検察は被告に対し質問を」
前座が片付いたので本命に入ります。多大な犠牲を払うのです。せめて勝ち目しか無い法廷を楽しみましょう。




