第四百三話 開幕のご挨拶
裁判長も検察官も、私が否認するのは予測していたのでしょう。表情に変化は見えません。
「裁判長、発言を宜しいでしょうか?」
「発言ですか、どうぞ」
検察官に私への質問をさせようとしていた裁判長は、予想外の要請に少し戸惑ったようでした。しかし、すぐに発言を許可してくれたので1つ目の爆弾を落とします。
「岩槻弁護士、あなたは到底看過できない嘘をついてこの裁判に臨みましたね。この場で解任させていただきます」
突然の解任劇に法廷内は大きなざわめきに包まれました。被告が弁護士を解任する事は珍しくありませんが、裁判が始まる寸前での法廷内での解任はそうそう無いでしょう。
「な、な、何を言い出すのですか?いくら世間知らずのお嬢さんでも、こんな人を侮辱したやり方認められませんよ!」
それは怒るでしょう。まるで一時期流行った婚約破棄小説のように、一方的に悪者だと決めつけて契約を破棄すると告げたのですから。
「ギリギリになって、この世間の耳目の集まる場で解雇したのも必要があってです。裁判長、これを」
風呂敷包みからとある口座の出納を示す書類を提出しました。この風呂敷内の証拠書類は、事前に提出すると申請をしてあります。
「その書類にある通り、岩槻弁護士は国選弁護士に任命されてすぐに越谷ミュージックから多額の振り込みを受けています」
被告の弁護士が原告から多額の振り込みを受けたという暴露に、傍聴席の動きが慌ただしくなりました。速報を出すために何人かが外に出たようです。
「そ、そんなデータどこから!」
「複数のルートから調査した結果です。情報を提出してくれた機関の名も書いてあります。」
「こ、これは本当か?内閣調査室・ICPO・NATO情報部・CIA・KGB・MI6・モサド・・・信用出来ないと言うのは自由ですが、それらの所属する機関を敵に回す覚悟が必要となりますよ」
書類の真偽を保証する組織の多さと規模に、岩槻弁護士の顔色は青白くなっています。これらの組織を敵にする度胸はまず無いでしょう。
「あ、ああ、以前越谷ミュージックから依頼を受けていたので、その報酬の振り込みがあったのですよ」
豪華な調査陣に否定は無理だと悟った岩槻弁護士は誤魔化しに走りました。小学生レベルの言い訳に、思わず苦笑してしまいます。
「あら、あなたは『越谷ミュージックとは関係した事はない』って断言しましたよね?」
証拠物件第二弾を使用します。例のレコーダーを音量最大で再生しました。それには本人の声で関係した事はないと断言されていました。
「えーっ、度忘れ、度忘れしていたんだ!」
この人、小学生レベルの言い訳しか出来ないようですが本当に司法試験に受かった弁護士さんなのでしょうか?




