第四百二話 いざ開廷
この世界は似て非なる世界です。裁判も微妙に違いがあります。
「ご覧下さい、東京地裁前にはすでに傍聴を望む人が列を生しています」
今日は刑事裁判の初公判が行われます。テレビをつければどこのチャンネルもこのネタばかり報じていました。
「何時から並びましたか?」
「朝の3時からです」
「昨夜の11時から並びました」
レポーターが列に並んだ人に聞いていきます。10時半開廷で前日の夜から並ぶ人が居るとは思いませんでした。そこまでして傍聴したいのでしょうか。
「有名人の裁判や大きな事件ではあるけど、名誉毀損なんて微罪で被告は名もない女子高生なのにね」
「遊ちゃんは無名でも、ユウリちゃんは違うでしょ。それに遊ちゃんも一部では有名人よ」
スペース侍の内臓をやっていた事が特撮関係の人に突き止められ、北本遊としても名が売れたらしいです。
「さあ遊ちゃん、早めに裁判所に入りましょう」
「そうですね。桶川さん、お願いします」
裁判で使う証拠の資料を昔懐かしい唐草模様の風呂敷に包んで持ちます。これを提示した時、どんな反応をされるか楽しみでしかたありません。
「あっ、只今桶川プロの桶川社長の車で北本遊さんが裁判所に入りました。遊さん、一言お願いします!」
桶川さんの車で裁判所に来ると、待ち構えていたマスコミに包囲されました。すぐに衛士の人が来て進路を確保してくれたので建物に入れましたが、衛士さんが居なければ入るのにかなりの時間を費やしたでしょう。
「それじゃあ遊ちゃん、私は会社に戻るわね」
「この裁判で問い合わせが殺到するでしょうからね。お願いします」
傍聴券を持たない桶川さんは法廷に入れません。証人申請もしていないので証人にもなれないのです。桶川さんはこの裁判に対する対応を執る為に会社へと戻りました。
「北本遊さん、今日は全力を尽くします」
「お願いしますね」
岩槻弁護士が開廷前に挨拶に来ましたが、御座なりな対応で済ませます。彼の見せ場はすぐに終わる予定です。
「北本遊さん、法廷にお願いします」
お巡りさんに左右を固められて法廷へと入り被告人席につきます。弁護士席には岩槻弁護士が待機し、傍聴席に見覚えのあるオバサンの姿が見えました。矢張りあの人が越谷ミュージックの女社長のようです。
「被告人は原告より声優ユウリ氏への移籍依頼の伝言を依頼されながら、事実無根の誹謗中傷を行った。これにより越谷ミュージックは企画していた映画の計画が頓挫。多大な損害を負った。罪状、越谷ミュージックに対する名誉毀損。被告人、間違いありませんか?」
宣誓に続き罪状認否へと移ります。私の選択は当然ながら否認となります。
「そんな事実はありません、否認します」




