第四十二話 どうしようもない不安
少し長くなりました
明日は日曜だけど、あまり遅くなりたくない。私だけ未成年であり、あまり遅くなるのは不味いということで私だけ先に帰らせてもらえました。
「あれで良いのかしら。かなりグダグダだったけど・・・」
スタッフさんは良いと言っていたけど、気になってしまいます。告知も最低限でしたし、ボケる蓮田さんに私が突っ込んでいただけでした。
「あれで良いのよ、面白かったわよ。大事なのは面白い事。また聞きたいと思って貰うのが一番よ」
「そうね。今さら心配しても仕方ないしね」
収録が終わった以上、私に出来る事は何もない。初回の評価を基に次回の内容を良くするというのが最善でしょう。
「さ、着いたわ。おやすみなさい」
「いつもありがとうございます。おやすみなさい」
桶川さんにはお世話になってばかりです。しかし、社長にいつも送迎をしてもらう訳にもいかないでしょう。高校に入ったら原チャリの免許取ろうかしら。
「ただいま」
「お帰りなさい!あれ?お姉ちゃん、その服見たこと無いよ?」
由紀が帰っていました。ユウリ用の服を見られたのは痛恨ですが、髪は戻したし化粧も落としたので気付かれないとは思います。
「この間買ったのよ。似合う?」
慌てず、自然に対応します。下手に狼狽すれば、更なる追求を受けてしまいます。
「似合うよ。お化粧もすれば良いのに」
さっきまでしてました。とは言えないので、はぐらかして離脱しましょう。
「お化粧なんて、する必要性を感じないわ。若い頃から化粧に頼ると、肌が荒れると聞いたしね。疲れたからお風呂に入るわよ」
由紀をかわして部屋に入ります。着替えを持ってお風呂へ。湯船に浸かり、リラックス。考えるのは、今日の収録の事ばかり。
アップされるのは火曜日の昼です。聞いた人達は、どんな反応をするでしょう。スタッフさんや桶川さんは、面白いと言ってくれました。でも、みんなは一緒に仕事をした身内です。
声優さんは、みんなこんな不安な思いをしているのでしょうか。胸の中のモヤモヤが晴れないまま、浴槽からあがります。
お風呂を出ると、由紀と鉢合わせしました。部屋に戻らず、私を待っていたようです。
「お姉ちゃん、何だか暗いわよ?大丈夫?」
「ありがとう。でも、大丈夫だから。おやすみなさい」
私は心配する由紀を残して部屋に戻ります。着替えた服をハンガーに吊るし、ベッドへ倒れ込むとすぐに意識を手放しました。
どこかで音が鳴っています。聞いた覚えのある音です。音の正体は、携帯の着信音でした。手探りで携帯を探し、通話ボタンを押します。
「本日は定休日です。またのご利用を・・・」
「遊!寝ぼけてるの?」
着信は友子からでした。
「友子なの?何よ、こんなに朝早くから・・・」
「もう昼よ?いつまで寝てるのよ!」
眠い目をこすり、携帯の表示を見ると、時計の針は12時10分を示していました。
「昨日の話を聞かせて欲しいから、これから行くわよ」
昨日というと、ラジオの件でしょう。親友様の願いです。話せる範囲で話してあげましょう。
「疲れた。終わり」
「もっと具体的に無いの?蓮田さんの話とか!」
最も端的に、核心を突いた説明を行ったのですが、親友様はご満足いただけなかったようです。
「明後日の昼にはアップされるわ。先に聞いたら面白くないでしょう?」
「それで聞けない裏話を聞きたいのよ!」
裏話と言われても困ります。ひたすら蓮田さんがボケ、私が突っ込んでいただけですから。
「裏話なんて、特に無いわよ」
「収録前の話とかは?」
収録前にしたことと言えば、あれだけです。あれは話しても問題ないでしょう。
「蓮田さんと桶川さんが、私の膝枕で寝た位かな?」
「えっ!何それ!詳しく聞きたいから、すぐに行くわ!」
一方的に切られてしまいました。止められそうもないので、着替えて身支度を整えます。少ししてチャイムが鳴りました。
「いらっしゃい、時間かかったわね」
「おじゃまします」
リビングへ通し、コーヒーを淹れます。ソファーに座ると、友子はコンビニの袋を差し出しました。
「遊、起きたばかりで何も食べてないでしょ?これを買ってきたのよ」
中にはサラダとパスタが入っていました。遠慮する仲でもないので、ありがたく頂きます。
友子にコーヒーを出して、もらった昼食をいただきます。食べながら昨日の様子を話しました。
「ふぅん。それで良いんじゃない?」
「良いのかなぁ。肝心なアニメの内容は殆ど触れてないよ?」
アニメ番組を宣伝する番組なのに、アニメに殆ど触れていませんでした。それで宣伝になるのでしょうか。
「でも、詳しく話すとネタバレになるでしょ?原作見てない人もいると思うわよ」
言われてみればその通りです。番組の内容を話しすぎても話さなくてもいけない。告知番組、奥が深いです。
「まだ一回目でメールも無いんだから、時間を繋いで番組に興味を持ってもらうには良くない?」
「そっか・・・蓮田さん、そこまで考えてやってたんだ」
さすがベテランの売れっ子声優さんです。と感心していたのですが。
「地で脱線してたって可能性もあるけどね」
「それ、否定できないわ。どちらにしても、私も勉強してちゃんと司会しないとね」
蓮田さんに頼りきりでは不味いと思ったのですが、友子の反応は意外でした。
「その必要はないんじゃない?」
「何で?いつまでも蓮田さんに頼るのは・・・」
「やり方を心得た蓮田さんと、既存のやり方に囚われないユウリちゃん。その二人だから面白くなるかもよ?」
そういう考え方もあるのかと、目から鱗が落ちたようです。
「そうね。とりあえず一回目の評判次第ね」
パスタとサラダを食べ終わり、容器を片付けます。席に戻ると、友子が伺う目で私をじっと見つめます。
「一度収録生で見たいな」
「駄目よ。ポッと出の私が友達連れてスタジオに行けるわけないでしょ?」
即座に却下すると、不満そうに口を尖らせました。何と言われようと無理な物は無理です。
「それはそうと、受験はどうだったのよ?」
「バッチリ合格よ!高校生活が楽しみだわ」
得意満面の友子。余程の自信があるようです。
「私は今から憂鬱だけど」
「あら、楽しそうで良いじゃない?」
トップがあの二人というのは、不安要素にしかなりません。友子には楽しいかもしれないけどね。
「私には頭痛の種よ。まさか教師がオタクとは・・・」
「まぁ、なるようになるわよ」
ケラケラと笑いながら手を振る友子。他人事だと思って軽い反応です。
「今更どうしようもないわね。何かやる?」
由紀のおかげで、うちには大量のゲームがあります。共にアニメ鑑賞をするよりマシなので、そちらに誘導しました。
「スペランカー!」
・・・また古い物を。そう思いつつも、私達は夕方までスペランカーをやり続けました。
友子・・・これを4周するなんて、あなた何者?
二周目で鍵が透明になり、三周目で鍵の位置でジャンプしないと取れなくなります。
四周目で鍵の位置でフラッシュを炊くと取れるようになり、五周目はフラッシュを炊いてジャンプすると取れます。
流石に五周目はクリア出来ませんでした。




