第三百九十九話 国選弁護人
ユウリとしてホテルに泊まりました。翌日はユウリのままで更に変装して外出します。行き先は新宿駅近くの喫茶店です。国選弁護士が決まって、今日顔合わせすることになっていました。
お母さんから面白い話を聞いているので、会うのが少し楽しみです。待ち合わせた店に入ると、相手らしき男の人とお母さんは既に来ていました。
お母さんは私に気付いたようですが知らないふりをしています。弁護士さんらしい男性は私がユウリだとも遊だとも気付いていません。
そのままトイレの入ると変装を解き、北本遊に戻ります。何食わぬ顔でお母さんが待つ席に行き挨拶を行いました。
「お待たせしました、北本遊です」
「私は弁護士協会から派遣されてきました、岩槻五郎と申します」
席を立ち手を差し出してきたので握手に応じて席につきます。ウェイトレスさんが来たのでオーダーをします。岩槻さんがアメリカンで、私はローズティー。お母さんは柿100%ジュースを頼みました。
こんな場でもチャレンジするお母さん。少し自重してほしいものです。すぐに飲み物が来たので本題に入ります。でもその前に行わなければならない事項がありました。
「岩槻さんすいません、後程訴訟対策の方針に誤解の無いよう録音したいのですが」
「別に構いませんよ、ちょっとした記憶違いや度忘れの防止は大切ですから」
許可を得てレコーダーをテーブルに置きます。後程難癖を付けられないように事前に宣言して許可を取っておくのは基本です。
「まずは確認させて下さい。あなたはこれまでこの裁判の関係者、北本家の者や声優ユウリ、桶川プロ、越谷ミュージックと一切関係はありませんね?」
「はい。ありませんよ。しかし凄いですね。そんな事を確認してくるクライアントなんて滅多にいませんよ」
例え弁護士協会から派遣されて来た弁護士さんとはいっても、無条件で信用は出来ません。一口に弁護士さんと言ってもピンキリなのです。
「あんな訳のわからない提訴をされましたから、慎重にもなりますよ」
「慎重なのはとても良いことですよ。特に法律の世界においてはね」
口の端を僅かに吊り上げ笑う岩槻さん。「裁判の話をこんな場所でする小娘が知ったかを」という本音が顔に出ていて隠せていません。
「では本題を。起訴内容が名誉毀損ということですが、裁判では未成年であることと、労働経験の無さをアピールし情状酌量を狙います」
「それは困りましたね。私は無罪を勝ち取りにいきますよ」
向こうは物証なんて用意出来ないのですから、負ける確率は0パーセントです。ここで言う必要は無いので言いませんが。
「北本さんがユウリさんに悪意ある虚偽を言っていないと証明する事は不可能ですよ」




