第三百九十六話 逃避行
お姉さんは携帯式のレコーダーを取り出しました。マスコミ関係者のようです。
あの雑誌の例もあるので迂闊な取材は受けれません。ユウリなら「取材は事務所を通して」と避けられるのですが、遊ではその手は使えません。ここはやはり三十六計走為上、即ち逃げるが勝ちです。
「あっ、ちょっと待って!」
待てと言われて待つ人はいません。猛ダッシュで反対側へ走り出します。路地を曲がりに曲がってお姉さんを撒く事に成功しました。かなり遠回りになりましたが、何とか駅に到着です。
こちらから名乗っていないのに私が北本遊だとあのお姉さんは知っていました。遊の顔はマスコミ関係者に割れていると判断した方が良さそうです。
予定では直接桶川プロに行く事になっていましたが、状況の変化に鑑み一旦家に帰る事にします。
「こっちも張られてるわねぇ」
うちの両親は有名人なので、当然家の所在も知られています。そんな場所に取材が来ないはずあるでしょうか?家でユウリになって軽く変装をと思っていましたが、私が甘かったようです。
家もダメで事務所も多分マスコミが張り付いているでしょう。となると、私が着替える事が出来る場所はあと一つしかありません。
時間がかかりそうで気が乗らないのですが、後がありません。頼みの綱のお店に電話して、これから行くことと着替えの準備をお願いしました。
通りでタクシーを捕まえて目的の場所を告げます。到着までに桶川さんに電話をして、マスコミが張っているので家と事務所に近付けない事を伝えました。
「それじゃ私も今から向かうわ」
「お願いします」
連絡を終えると同時に目当てのお店、深谷服飾店に到着しました。タクシーを降り、念のため周囲にマスコミが居ない事を確認してからお店に入ります。
「遊ちゃん、大変な目にあったわね!」
「ふ、深谷さん、苦しい!」
入るなりきつく抱きしめられました。窒息して意識を失う前にツボを突いて麻痺させ腕から脱出します。「誰にも突ける人体の急所」で学んだ事が役に立ちました。
著者の秀さんは昔の人だそうです。なんでもかんざし職人だったとか。
「あら町子、ハシビロコウの真似?」
到着した桶川さんが動かない深谷さんを見ての第一声がこれでした。深谷さんが動かない理由を説明します。
「抱きつかれて窒息しそうだったので、ツボを突いて麻痺してもらいました。今解除します」
解穴のツボを突いて効果を解除します。動ける事に気付いた深谷さんは手足を動かして異常が無い事を確かめていました。
「全然動けなかった・・・遊ちゃん、怖い子!」
長寿漫画のネタはいいです。用件に入りましょう。




