第三百九十五話 増える味方
「全校集会でこの出版社の不買を提議しなくては・・・」
「校長、教育委員会でも提議すべきですぞ?」
「気持ちは嬉しいけど止めて下さい!」
明らかに職権濫用です。しかも、教育委員会にもなんてとんでもない話です。
「貴女がそう言われるならやりませんが、校内ではそれに近い状態になるのでは?」
「生徒の自主的な行動までは、我々は干渉しませんからねぇ。もちろん、教員もです」
ドラマの悪役のような雰囲気を醸し出す校長先生と教頭先生。明るく温厚な2人の意外な一面が垣間見えました。
「裁判には勝つつもりですし、あまり大事には・・・」
「ええ、校長としては何もしませんよ?」
「せいぜい個人として知人に情報を広める位ですねぇ」
校長や教頭という立場ではなく個人として行う事を止める権利は私にはありません。私を心配し、心から怒ってくれている2人を見て必ず勝つと決意を新たにするのでした。
校長室で思いの外時間を喰ってしまったので、今日はこれで早退します。鞄を取りに教室に行くと授業はやっていませんでした。
「北本さん、外にマスコミが陣取ってるわ!」
クラスメートがスマホで見せてくれたワイドショーには、この高校の正門が映っていました。字幕には「越谷ミュージックが女子高生を告訴!」との見出しが踊っています。
「裏門にも張ってるみたいよ、どうするの?」
生徒の殆どの人が私を気遣って色々してくれました。同じ学校で学ぶ者という意識もあると思いますが、私と友子が語った内容が広がり越谷ミュージックはユウリの敵とみなされたみたいです。
その敵と敵対する私は味方という論理で、殆どの学生と教師は私に味方してくれるようでした。
「門から出なければ問題ないわ」
念のため周囲をガードしてくれるクラスメートと共に裏庭に出ます。等間隔に並んだ桜の木を三角跳びの要領で蹴って塀の上に乗りました。
「北本さんって、噂の通り規格外ね・・・」
「これ、図書室にあった本を見て習得したんです。何かと便利なのでお勧めですよ」
本のタイトルは「君もこれで忍法使い!~基本から螺○眼まで~」出版社は○明書房というところです。
「あの出版社の本の内容をマスターした人初めて見たわ」
何故か呆れられてるようですが、ハウツー本なのですから本の通りに練習すれば出来て当然だと思います。
マスコミに見つかる事無く学校を脱出し駅に向かって歩いていると、背後から声をかけられました。
「すいません、ちょっとお聞きしたい事があるのですが?」
反射的に振り返ると、そこには眼鏡をかけたキャリアウーマン然としたお姉さんがいました。
「もしかして北本遊さん?ちょっとお話を!」




