第三百九十四話 情報戦
「あなた北本遊さんよね?」
「はい、そうですが・・・」
スペース侍の内臓の件以外で見知らぬ先輩に呼び止められるような目立つ事をした覚えはありません。何故態々と呼び止めたのでしょう。
「越谷ミュージックから訴えられたと聞いて・・・」
「えっ、何故それを?」
うちも桶川さんも外に漏らしていませんし、ネットにもその話題は上がってなかったはずです。
「これよこれ!」
先輩が鞄から取り出した雑誌には、大きく「人気作家令嬢の傲慢」「映画作成を中止に追いやる」との見出しが書かれていました。
記事は私への悪意に満ちていて、極端に越谷ミュージック寄りで今回のあらましを紹介していました。
その雑誌の名前には聞き覚えがあります。先だって執拗にユウリの移籍を聞いてきた雑誌だったのです。周囲を歩いていた生徒も会話が聞こえたのか、緩く人垣を作って聞き耳を立てています。
「訴えられたのは本当です。でも、この記事は殆ど捏造に近い内容です」
「私も一緒にいたけど、あれは依頼なんてものじゃなかったわ」
友子も越谷ミュージックの人間と思われる人に会った時の情景を話します。話が進むにつれ、周囲の人々は私に対して同情の視線を向けるようになりました。
「桶川プロに送られてきた移籍の契約書もふざけた内容で、ユウリさんは即座に断ったらしいです」
具体的な内容も知っていますが、桶川プロの非常勤スタッフの遊がそこまで詳しいのは不自然なのでぼかします。
「記事と事実はかけ離れてるみたいよ!」
「あの雑誌、本当に信用出来ないな!」
同じ学校の生徒という事もあってか、周囲の皆は私と友子の話を鵜呑みにして後から集まった生徒に話を広げています。
私達の話が100%正しいという保障も無いので、簡単に信じて広めるのは有る意味危険な行為です。今回は真実なので支障ありませんが、そんなに簡単に人を信じると危ない目に遭うかもしれません。
クラスについても話題は私の訴訟一色でした。私と友子は教室に入るなり沢山のクラスメートに囲まれてしまいました。
「相手は大企業だろ、勝てるのか?」
「大丈夫よ、正義は勝つのよ!」
「弁護士が異議ありっ!とひっくり返してくれるさ!」
心配してくれるのは嬉しいのですが、これでは授業が始まりません。
「北本遊さん、至急校長室までおいでください」
校内放送でお呼びがかかりました。当然校長先生の耳にも入っている筈です。校長室に入るなり、例の雑誌を見せられました。
「北本さん、記事は読みましたよ!」
「何ですか、この雑誌は!明らかに公正さを欠いている不適切な報道です!」
校長先生も教頭先生もげきおこ状態です。とりあえず経緯を説明しておきました。




