第三百九十一話 崩壊の足音
何があってもあの事務所だけには移籍しないと改めて心に誓いました。もし桶川プロが無くなるような事態になるならば、個人事務所を作って活動します。
「そうそう、夏に公開の実写映画でオファーがきたわよ」
「私、俳優ではないのですけど」
スポットで俳優としてのお仕事が入ったようです。私は一応声優です、お忘れなく。
「スペース侍で主人公を助けるくの一役よ。それでも断るかしら?」
「くっ、断れるわけないじゃないですか!」
因縁のある作品です。マスコミに包囲された警察署から脱出させてくれた恩もあるので出演する事となりました。新たな仕事も決まり、気分を変えてAKUNARIの吹き替えへ向かいます。
大筋の吹き替えは終了していたので、細かいニュアンスの変更や追加するセリフを録音していきます。
「お疲れ様でした。吹き替えは全て終了です」
収録は無事に終わり、時間があるメンバーで雑談を楽しむ事となりました。
「ユウリちゃん、最近不穏な噂がチラホラ出てるけど大丈夫?」
「桶川プロの扱いが悪いから移籍するとか・・・うちら現場はユウリちゃんと桶川社長の良好な関係をこの目で見てるから信じないけどね」
ワタシの移籍話だけの留まらず、桶川プロの悪評まで流されているらしいのです。しかし、社長自ら私に同行し仲良くしている姿を見ているので業界関係者は相手にしていないとのことです。
「桶川さんがマネージャーの真似をしている事が、こんな風に役立つとは・・・」
「副社長の犠牲はやはり無駄では無かったわね。今度高い胃薬と育毛剤をお土産にしてあげましょう」
桶川さん、副社長に仕事をなげるのを犠牲と言い切ってますけど・・・
業界内部の噂を集めて対応していくことニ週間、とんでもない衝撃が我が家を襲いました。
「こんにちは」
「あら、土呂刑事。お久しぶりです。」
仕事がたまたま休みで寛いでいたところに、懐かしい来客がありました。私の警護を買って出てくれていた土呂刑事が訪ねて来たのです。
リビングにお通ししてお茶を出します。お父さんとお母さん、由紀もやってきました。
「久しぶりです。相変わらず朝霞さんLOVEですか?」
同じ声優マニアの由紀が切り出します。しかし土呂さんは応じません。真剣な表情で私を見つめていました。
「ユウリさん、いえ、遊さん。あなたにこれを」
土呂さんは懐から取り出した一枚の紙を広げます。それを読んだ私や両親、由紀は言葉を失いました。
「東京地検からの告訴状です。あなたは刑事、民事の両方において告訴されました。民事の訴状は後日地方裁判所より送付されると思います」
土呂さんの声が静かなリビングに響きました。




