第三百八十九話 妙なインタビュアー
これからやる吹き替えは「AKUNARI」の日本語版です。アメリカで作られた実写版悪なりを日本語に吹き変えるというお仕事です。
「フィラデルフィア・ビーム!」
ロザリンドちゃんが交差した腕からビームを放ちます。直撃を受けたクリーチャーはビームにより生まれた次元の隙間に吸い込まれていきます。
「後は大物だけね、ヴァルキリー!」
ロザリンドちゃんの声に応え、銀色の飛行船が大空から降りてきました。上空で変形した飛行船は、巨大な騎士となって超大型クリーチャーに襲いかかります。
「ヴァルキリー、止めを!」
「ロッザリンドォォォ!」
怯んだクリーチャーはヴァルキリーの上段からの渾身の斬撃を受けて大爆発、四散しました。それを確認したヴァルキリーは何処かへ飛び去ります。
「はい、オッケーです!」
「お疲れ様でした!」
殆どの吹き替えを収録し、本日分の吹き替えは終了しました。他の出演者の皆さんと集まり映画の感想を話し合います。
「あの設定はないわよね」
「まあ、原作もぶっ飛んでるし・・・」
筋書きは王都に迫るクリーチャーの軍団を、主要キャラが変身した戦隊ヒーローと司令のロザリンドちゃんが操る巨大ロボが殲滅するというものでした。
「悪役令嬢ものに巨大ロボやヒーロー戦隊を出すのはどうかと思うけど、そこは原作通りだからなぁ」
世の中悪役令嬢ものは数あれど、巨大ロボやヒーロー戦隊が出てくるお話はそう多くないのではないでしょうか。
などと話し合う楽しい時間はすぐに過ぎるもので、次の仕事の時間になってしまいました。
「皆さん、次の仕事に行きますので失礼します」
次は雑誌の取材を受ける予定です。あまり気が乗らない仕事ですが、気が乗らないからキャンセルなんて無責任な真似は出来ません。
桶川さんも同席してのインタビューが開始されました。あまり評判が良くない雑誌のようで、警戒した桶川さんが同席を条件にしたとの事です。
それなら拒否してもらいたいのですが、拒否しても拒否しても申し込んできたので根負けしたとか。ありがちな無難な質問をされて、無難な答えを返します。それに慣れてきた頃にその質問がきました。
「ユウリさんは移籍するという噂がありますが、本当でしょうか?」
「移籍するということはありません」
きっぱりと、曲解する隙のない返答を返す。こういう質問に少しでも曖昧な答えを返すと、尾鰭と背鰭だけでなく胸鰭まで付いて拡散されてしまいます。
「某大手事務所からオファーを受けて、準備されているとの情報もありますが?」
「人気芸能人に移籍の勧誘は付き物です。しかし、ユウリちゃんも私も断っています」
その後も完全に否定しているにも関わらず移籍の話を持ち出すインタビュアー。初めから結論ありきで聞いてきている事は明白でした。
「同じ質問ばかりのようですので、ここで終了とさせていただきます」
こめかみに血管浮かせた桶川さんが終了宣言して席をたちます。私もそれに倣って立ち上がり、引き留めようとするインタビュアーを無視して立ち去りました。
「何だったのよ、あのインタビュー!」
「執拗に移籍の話ばかりしてたわね」
自分達の書きたいネタを言わせようとする事はまま有る事ですが、あれは執拗過ぎました。




