第三百八十八話 変なオバサン
クリスマスも終わり年の瀬に入りました。積もった雪も除雪され、今日の終業式を終えれば冬休みに入ります。
「今年の冬休みは悪なりを始めから一気読みするわ」
「友子、もう少し建設的な行動とらない?」
我が親友様は今日もマイペースです。そんな他愛のない話をしながら登校していると、目の前に黒塗りの高級車が停車しました。開いた後部のドアから降りてきたのは、趣味の悪い成金と一目でわかる服を着たオバサンです。
「あんたがユウリにコネがあるって小娘?写真で見るより貧相な顔してるわね」
その顔に記憶がないので恐らく初対面だと思います。オバサンの発言は初対面(仮)の相手に投げる言葉ではありません。そんな無礼者に関わるのは嫌なので、無視して行くことにします。
「人が話しかけてるのに無視するなんて、教育もなってないわね。あんた、ユウリとかいう小娘に伝えなさい。うちに移籍しろって。来年製作する映画の主役にしてやるからありがたく思いなさいな」
オバサンは一方的にそう告げると、返事する間もなく車に乗って走り去りました。私と友子は反応する事も出来ずに小さくなっていく車を眺めます。
「・・・何あれ?」
「名前もわからないのに移籍しろって、どこに移籍しろって言うのかしら?」
その事務所については予想は出来ます。多分以前から再三移籍しろと煩かった越谷ミュージックでしょう。
「今の録音してるけど、データいる?」
「録音なんかしてたの?いつもしてるの?」
普通の女子高生は登校中に録音したりはしません。もっとも、我が親友の友子を普通の女子高生と言って良いかについては大いに議論の余地があります。
「こんな事もあろうかと準備しておいたのよ。遊の近くにいると何があるかわからないから」
友子さん曰く、タクシーなどに使われてるレコーダーの応用だそうです。録音する端から10分以前のデータを消していき、叩くなどの衝撃を与えると消去機能を停止してデータを自動で保存されるとか。
「ああいうのはまた来たりするからね」
「確かに難癖つけてきそうな人だったわ。友子、ありがとうね」
何も無いのが一番ですが、昔から備えあれば憂いなしと言います。万が一に備えておく事は後悔しない為には必要でしょう。
朝イチからハプニングがあったものの、終業式は恙無く終了しました。今日は午後からお仕事なので真っ直ぐ桶川プロへと向かいます。
「今日は桶川プロに直行するわ」
「行ってらっしゃい、頑張ってね」
友子に見送られお仕事に。専用控え室で着替えて桶川さんと共に出陣します。まずは吹き替えのお仕事からでした。朝霞さんや蓮田さんも一緒なので張り切ってます。
「ユウリちゃん、久し振り!」
「またこのメンバーで集まれたな!」
スタジオには悪なりで一緒だった皆さんが揃っていました。また一緒にお仕事をしたおと思っていましたが、こんなに早く実現するとは思ってもいませんでした。




