第三百八十二話 除雪作業
「冗談はここまでにして、遊ちゃんと由紀ちゃんに除雪をお願いしたいの。お父さんはお仕事で出来ないから」
本当に冗談だったのでしょうか。結構本気だったような気がしましたが、話が進まないのでスルースキルを発動しました。
「屋根は昨日お父さんがやったから玄関前を頼むわね」
お母さんはそそくさと仕事場に篭ってしまいました。お父さんの仕事が大詰めで忙しいならば、連動してお母さんも忙しいということになります。手の空いている私達が除雪するのが最良でしょう。
「由紀、すぐにかかるわよ。覚悟はいい?」
「除雪なんて初めて。楽しみだなぁ」
関東人は除雪する機会なんて殆どありません。はしゃぐ由紀を促して一旦部屋に帰り、ジャージの上下に着替えます。両手に軍手をはめて、物置部屋からスコップを持って玄関から外へ出ようとしました。
「では出陣。由紀、いきま~す!」
お約束のネタの後ドアを開けようとした由紀でしたが、ドアは何かに当たって開きません。何度か試しますが結果は毎回同じでした。
「あれ、開かない?」
「多分、積もった由紀・・・じゃなかった雪で開かなくなってるわね」
豪雪地帯では積もった雪で一階から出られなくなるので、二階にも出入り口を作っているとは知識で知っていました。しかし、まさか埼玉でそんな情況になるとは思いもよりませんでした。
リビングに回り窓と鎧戸を開けると、目の前には真っ白な雪の壁がそそり立っています。雪は柔らかく軽いというイメージがありますが、圧縮されているのか結構な密度で重そうです。
「溶かしてスペースを作る必要があるわね」
どかした雪を置くスペースから作らなけれぱ除雪は出来ません。何かいい道具が無いかと物置部屋へ移動し中を探します。
「使えそうな物が無いわねぇ・・・」
「ヘアスプレーとライターで代用する?」
噴射したスプレーにライターで着火する事で簡易火炎放射器となります。それは携帯小説では定番の代用兵器ですが、この場合には不向きです。
「瞬間的な火力があっても駄目よ。持続して雪を溶かす必要があるから」
「そっか。じゃあ、これも駄目ね」
「・・・どこかに封印して頂戴」
ロールプレイングゲームの略称に7を付けた筒を持ち出した由紀に戻すよう指示します。お母様、こんな物騒な代物を一般家庭の物置に置かないで下さい。
「お姉ちゃん、右手が真っ赤に燃えて唸ったりしない?」
「由紀、私は人間よ、漫画やアニメの登場人物と混同しないでね」
探索の結果、雑草焼き用のバーナーが見つかったのでそれを使う事になりました。それは良いのですが、一度由紀とはとことん話し合う必要がありますね。
「面白いように溶けるわね」
行く手を遮っていた白い壁がみるみるうちに溶けて無くなっていきます。本来の用途とは違いますが、取り敢えず問題は無さそうです。
「お姉ちゃん、全部溶かしてしまえば楽じゃない?」
「溶かした雪で水浸しになるわ。その水が凍ったら滑って大惨事よ。ある程度溶かしたら玄関に向かって除雪するの」
動けるだけのスペースを確保したら、そこからシャベルの出番です。熱を帯びたバーナーを可燃物が無い場所に置きシャベルを持ち替えます。
「フフフフフ、シャベルは最強の近接兵器~」
テンションの上がった由紀が掬った雪を投げまくります。後で筋肉痛で泣く事にならなければ良いのですが。




