第三百八十一話 お手伝い
「お父さん、そろそろお仕事の時間よ?」
「はあ、締め切り近いから仕方ないか」
お母さんに呼ばれ、ソファーから起き上がり仕事部屋に向かうお父さん。次いで私と由紀も呼ばれました。言われていたお手伝いの事かと思われます。
「遊と由紀はこっちね。2人でお父さんのイメージを膨らますのよ」
お母さんに誘われた私達の行く先は仕事部屋の隣の部屋でした。何だか嫌な予感がするのですが、否やと言う訳にもいきません。
そして20分後
「お姉ちゃん、諦めなって」
「この姿はちょっと・・・」
「家族しか居ないのだから観念しなさい」
お母さんと由紀に引っ張られて仕事部屋へ入ります。私の小さな抵抗は何の実も結ぶ事はありませんでした。
「おっ、みんな似合ってるな!」
「今度はどんな作品書いてるのよ・・・」
お母さんと由紀、私はお父さんの小説のキャラクターに扮してます。その格好にはツッコミどころしかありません。
お母さんはメイド服を着たネコミミに尻尾装備の猫獣人。由紀はレディーススーツにネコミミ尻尾装備。猫獣人のビジネスウーマンでしょうか。私は尖った耳にビジネススーツです。エルフのビジネスウーマンかな?
これらのキャラが出る小説なんて想像もつきません。現代ものなのかファンタジーなのかはっきりしません。ちなみにお父さんは普通のビジネススーツ姿です。あれも登場人物の仮装のはずですが、どう見てもビジネス街野サラリーマンです。
「主人公が異世界でお金を作る話なんだけどね。本当は遊と由紀の役柄は9才の秘書さんなんだ。」
「そんな小さな子にモデル頼む訳にはいかないのよねぇ」
お父さん、お母さん、それ以前に9才の子に秘書は務まらないと思います。というツッコミは創作の物語にはイミガナイので飲み込みます。
「お父さん、話は頼んだわよ。遊と由紀は指定したポーズをお願いね!」
その後、夕方までお父さんは机の前にかかりきりとなりました。私達はお母さんに言われたポーズをとります。
「お姉ちゃん、姿勢を保つのって苦しいのね・・・」
「同じ姿勢でいるのは見た目よりも辛いのよ。だからモデルの報酬は高額になるの」
写真ならまだしも、写生のモデルは長時間同じ姿勢を求められ動く事は出来ません。手足をどこかに固定出来るポーズならばまだ楽なのですが、空中で止めるポーズはかなり負担がかかります。
「お姉ちゃん、余裕ね・・・」
「声優やってれば写真撮影なんていくらでもやるわよ」
取材による撮影でもう慣れました。不本意ですけど。
モデル役も終わり普通の服に着替えます。外を見ると、変わらず見渡す限りの銀世界が広がっていました。
「交通は完全に麻痺してるみたいよ」
ニュースでは除雪が進まない新宿駅前が映っていました。積雪に弱いのは都心の弱点ですが、対策はされていないようです。
「困ったわね、今日予約したケーキ買えるかしら?」
お母さん、心配する所そこですか?




