第三百八十話 父への労い
着替えて顔を洗いリビングへ入ります。ソファーにはゾンビのようになったお父さんが横たわっていました。無理もありませんが、かなりお疲れのご様子です。
「お父さんおはよう。朝から一仕事、ご苦労様です」
「遊、おはよう。雪って意外と重いのな。もう腕がパンパンだよ・・・」
小説家の命とも言える腕を酷使するのは誉められた行為ではありませんが、今回は不可抗力です。うちには男手がお父さんしかいない上、雪降ろしをしないと太陽光発電が機能しないのです。
発電以前に、屋根が雪の重みで潰れる可能性もあります。埼玉や東京の家屋は1メートルの積雪に耐える設計なんてしていないのですから。
「あら、おはよう遊。今日は外出出来ないわね」
「おはよう、お母さん。これだと交通網も麻痺してるわね」
この積雪では歩く事さえ難しいでしょう。道路が除雪されていなければ出歩く事も出来ません。自転車など論外ですし、車も走れるかどうか怪しいものです。
「幸い非常食は備蓄してあるから心配いらないわ。水も大量にストックしてあるし」
カップラーメンや乾パン、カ□リーメイトにゼリー飲料を地下に備蓄してあるそうです。その気になれば一家で年単位を過ごせる量だそうです。
「お母さん、一体何に備えてるのよ?」
一般家庭では絶対にやらないであろう備蓄が我が家にはあります。由紀が持った疑問は無理からぬ物でしょう。
「こういう災害はいつ来るかわからないのよ。備えあれば憂いなしと言うでしょう?」
うちの両親は趣味で戦場巡りする人なので、非常時への対策は万全なようです。大雪位は対策されてて然るべきということのようです。
「とりあえず遊ちゃん、朝食を食べたらお父さんを回復させてね。午後からお仕事だから」
ユー○ャン全制覇した私は、当然整体やマッサージの技術を取得しています。その技術を使ってお父さんを復活させろということですね。
「朝から重労働したんだし、今日くらいは休んでも・・・」
「締め切り、間に合うかしら?」
お母さんの必殺の呪文でお父さんのHPは0になりました。それに関しては完全に自己責任なので庇う余地はありません。
「仕事が捗るように遊ちゃんと由紀ちゃんも協力してもらうから。協力してくれるわよね?」
マッサージとか飲み物を用意したりでしょうか。普段私達の為にお仕事を頑張ってくれている両親の為ならば協力を惜しみません。
どのみち今日はお仕事は入っていませんでしたし、もしもあっても移動すらままならないので中止になっていたでしょう。
「もちろん協力するわ」
「私も協力する!」
と話が纏まった所で朝食を食べます。今日の朝食は力うどんでした。お餅は焼いてから油で揚げるという手の込んだ一品で、お味は文句の付け所がありません。
「これは効くなぁ!」
持てる技術をフル稼働してお父さんの右腕を揉んでいると、蕩けそうなお父さんが呟きました。渾身のマッサージは好評なようです。
「試験的に気功術を併用してみました」
「お父さんは実験台かwww」
と文句を言っているお父さんでしたが、その表情から察するに満更でもなさそうでした。




