第三百七十七話 不気味なデマ
その後は入れ替わる共演者さんやスタッフさん達と収録での思い出話に花を咲かせ、楽しい時間を過ごす事が出来ました。
そして楽しい時間も終る時が訪れます。監督さんの終わりの挨拶と共に悪なりの完成記念会は閉会となったのでした。
飲まない予定の桶川さんが飲んでしまった為桶川プロにタクシーで帰還、変装を解いてタクシーで帰宅というハプニングはあったものの無事に帰りつきました。
「おっ、お帰り、遊」
「ただいま、お父さん」
玄関から入ると、丁度トイレから出てきたお父さんとバッタリ遭遇しました。
「お父さん、今書いてるのファンタジー物?」
「おっ、よく分かったな」
お父さんの出で立ちは革の帽子に革の鎧、左手には木のバックラー装備というものです。こんな姿をしてれいば容易に想像がつきます。
「異世界転移ものでな。新作の『カネは天下の回りもの』という物をね」
「新しいの書くたび衣装もチェンジしてるのね・・・」
作品を書く毎に作品世界のコスプレをするのが作家さんの常識・・・という事は無いですよね?
「ねえ、お父さん。作品を書く度にコスプレするのはうちだけよね?」
「多分な。家はお母さんが自作してくれるけど、普通なら買う金が大変だから無理だろうな」
それって、金銭的にオッケーなら作家さんは皆様コスプレをやると言うことでしょうか?
「それはそうと、ユウリが移籍するなんて話を小耳に挟んだが・・・」
「そんなデマ、どこから流れているのかしら。私は桶川プロから移籍するつもりはないわよ」
「だよなぁ、何だってこんな噂が出ているのだか」
桶川プロが倒産するとか、解雇されるとかなったら移籍せざるを得ませんが、そんな話は聞いた事がありませんし私から移籍するつもりもありません。
「あなた、次のイラストにかかるわよ!」
「ああっ、いけない。仕事に戻るかな」
お父さんはお母さんに呼ばれて仕事部屋に籠ってしまいました。
お父さんのコスプレはお母さんのモデルの意味もあるのですが、普通の作家さんはイラストはイラストレーターの人に頼むので自らコスプレする必要は無いでしょう。
「でも、誰が何の目的で私が移籍するなんてデマを流してるのかしら・・・」
どんなデマを流されても、私は移籍するつもりはありません。である以上、無理矢理移籍させる事は無理な筈です。
この時、私は思いませんでした。そのデマが、正確にはデマを流した人があんな事を引き起こす事になろうとは。




