第三百七十四話 小娘の力
二ヶ月後、某テーマパークの事務室にて。
「白岡課長、この現状の責任をどうとるのかね?」
かつては沢山の人がアトラクションを楽しんでいたこの施設は、閑古鳥が鳴いていた。
「鷲宮部長、確かに入場者が激減した原因は未だ不明です。しかし、あの企画の実行により客足を取り戻す事は可能と考えます!」
「その企画とはこれかね?」
部長は懐から紙の束を取りだし机に放り投げる。それは白岡課長より提案されたイベントの企画書であった。
「そうです、スペースサムライコラボレーション企画さえ実行すれば・・・」
意気込む白岡課長の言葉は、鋭く睨む部長の眼力により中断された。口を閉じ、鷲宮部長の発言を待つ白岡課長。
「それは不可能だ。先方から断られたよ」
「そ、そんな・・・」
唯一の希望を絶たれた係長が項垂れる。この企画での起死回生を目論んでいた白岡課長は代替案を持っていなかった。
「夢を売る芸能プロが犯罪行為を助長させるような企業に協力は出来ないと言われたよ。心当たりがあるはずだね?」
初めは何を言われているのか理解出来なかった白岡課長だったが、それが過日の財布盗難事件だと思い当たり力なく項垂れていた係長の瞳に怒りの炎が灯る。
「あのガキか、ネットに書かない約束を破りやがったな!部長、あいつらはネットに書かないとの約定を破ったんです!悪いのはあのガキ共です!」
机から念書を取りだし机に叩きつける白岡課長。それを手に取り内容を読んだ鷲宮部長は大きなため息をついた。
「北本遊に北本由紀か、合点がいったよ」
「どういう事ですか?」
納得した様子の鷲宮部長の言葉に反応した白岡課長が反射的に問う。
「君はこの名前を聞いてわからんかね?この姉妹のご両親はスペースサムライの原作者だ」
「なっ、何ですって!」
「おまけに言うならば、北本由紀さんは中学テニスのトッププレイヤーだ。中学大会のみならず、全年齢の公式戦でも良い結果を残している。そんな彼女が今回の話を周囲に話したならば、客足が途絶えるのも納得だ」
白岡課長は小娘と見くびった女子中学生の影響力を聞かされ愕然とした。しかし、こうなっては後の祭り。白岡課長に打てる手など残されてはいなかった。
「この責任の全ては君にある。追って沙汰が下されるまで謹慎したまえ。まあ、降格どころでは済まないだろうね」
その後係長は平社員にまで降格されたうえ、依願退職の形で社を追われた。懲戒解雇にしなかったのはせめてもの情けだろうか。
その後、テーマパークは予定していた期間から大幅に期間を繰り上げ撤収が決定。跡形もなく無くなってしまったそうである。




