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第三十九話 心の準備

 次の日の朝。学校についた私は、机に突っ伏して呆けていました。昨夜は帰ってきた由紀に、いやと言うほどアニメの話を聞かされたからです。


 もうすぐ番組の改編期で、新しいアニメが沢山始まるとのこと。その中に「悪なり」もあって、ラジオの話も出てきました。

 パーソナリティーやる私が昨日知ったばかりなのに、由紀は何故か知っていたという事実に、かなりの頭痛を覚えました。


 どこからそんな情報を仕入れるのか知りたかったのですが、それを聞いたらどれだけ話が長くなるか予想もつかないので自重しました。

 そんなこんなで、疲れていた上に由紀のアニメ談義に付き合わされた為、学校で休息をとっているのです。


「おはよう。どうしたの?」


「由紀の話で消耗したのよ」


 友子は全てを悟ってくれました。成り立てとはいえ声優なのに、アニメ方面の知識が薄い私には予習の効果があるのである意味有りがたいのですが。

 精神的な疲労が激しくなるので体調を充分に整えてからにしてほしいというのが正直な感想です。


「時期が時期だけに仕方ないわね。ウェブラジオももうすぐだし」


「友子、ラジオって?」


 由紀が知っていたのですから、同類項の友子も知っていてもおかしくありません。念のため聞いてみると予想した通りの答えが返ってきました。


「あら、情報入ってるわよ?蓮田さんとやるんでしょ」


「矢張り知っていたの!」


 思わず大声で叫んでしまい、周囲の視線が集まります。友子が何でもないと手を振ると、集まった視線は散っていきます。


「その話は昼休みね」


 友子は自分の席へと戻りました。私は再び机に突っ伏してしまいました。


 昼休み。私は友子とお弁当を持って屋上へと上がりました。人が居ない所を探して座ると、本題を切り出します。


「ラジオの話、どこから仕入れたの?」


「結構前から話出てたわよ。新しいアニメの宣伝番組なんて今では普通だし」


 どうやら、知らぬは私ばかりだったようです。私が情報に疎いのか、マニアの情報が早いのか。恐らくは両方なのでしょうね。


「私、その話聞いたの昨日よ?」


「ネットでは結構話題になってるわよ」


 ネットで話題になっているなんて、公然の秘密どころか誰もが知っている話題となっていたようです。桶川さん達はそれを知っているのでしょうか。


「私はネットなんて見ないわよ。高校の校長も教頭も何も言わなかったし」


「そういえば、バイトの申請どうだったの?」


 学校の対応次第では通えなくなるため、気にしてくれていたようです。私はかいつまんで説明しました。


「アハハハ、協力してくれそうで良かったわね。おめでとう!」


 笑い転げる友子。私にとっては笑い話では済まないのですが。友子は仲間が増えて嬉しいでしょうけどね。


「まぁ、やりやすいかもしれないけど・・・」


「私と話が合いそうね、その校長。高校が楽しみだわ。ラジオも勿論ね」


 友子は食べ終わった弁当箱を片付けながら、さらっとハードルを上げてくれました。


「私は気が重いわよ」


「いきなりパーソナリティーって言われても、何をすれば良いのやら・・・」


 普段ラジオなんか聞かないから、全然わからない。蓮田さんに頼るという手もあるけれど、頼りきりというのも嫌。


「脳力試験の時みたいで良いと思うよ。ただ、ラジオは画面が無いから、声をきらさないように注意しないと」


「そっか。クイズやアニメの収録だと時々間が空いてたけど、ラジオだとダメなんだ」


 テレビならば話していない時でも映像は流れているけど、音声だけのラジオだと声が途切れるとリスナーの人達は何があったのかと思うでしょう。


「確か、1分間が空くと放送事故になるはずよ。まぁ、ウェブラジオなら編集きくし大丈夫よ」


 編集出来るならば、多少のミスがあっても挽回出来ます。その点気楽ですが、取り直しの連続で蓮田さんやスタッフの皆さんに迷惑をかけないようにしないと。


「良かった。編集できるなら、取り返しのつかない事故なんてないよね」


「そうそう。だから思いきりやれば良いのよ」


「友子、ありがとう。気が楽になったわ」


 不安が完全に払拭された訳ではないけれど、少し軽くなりました。台本読みをやらされたり色紙にサインしたりしたけれど、友子に打ち明けておいて良かったと思いました。


 そして、運命の土曜日の朝。私は迎えに来た桶川さんの車の中で髪をほどいていました。


 服は着替えてきたしお化粧もしてあるので、これで髪を整えれば準備完了です。


「編集がきくのだから、気楽にね」


「ありがとうございます。こうなったら、もうやるだけです」


 先ほど貰った台本には最低限言わなければならない宣伝と、大まかな流れしか書いていません。


 つまり、蓮田さんとの掛け合いをアドリブでやらなければいけないのです。

 芸能界入りたてのド新人に、何を期待しているのでしょう。ベテランの蓮田さんが居れば何とかなると思われているのでしょうか。

 

「芸能界は、こんな無茶振りが日常茶飯事なんですか?」


「そうねぇ、まだましだと思うわよ。かつて一世を風靡した桃色娘さんの代表曲、未確認飛行物体なんて振り付けのレッスン開始したのが初披露の収録の二時間前だったそうよ」


 下には下がいるのだから、文句言わずに仕事をこなせという理論ですね。

 どうやら、芸能界という業界自体が巨大なブラック企業のようです。

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