第三百六十話 後日談と某社の企み
朝食、というか昼食というか微妙な感じの食事をしながらテレビを見ます。
「昨日から何度も報道してるぞ」
「格好のネタだしねぇ」
「戦場帰りのパイロットならまだしも、お姉ちゃんは飛行機なんて操縦したことなかったしね」
パイロットが意識を失って、素人が操縦して無事帰還なんて滅多にある事件ではありません。もしあったら困ります。パイロットの皆さん、健康管理は厳重にお願いします。
「この2人もすっかり顔が売れたな」
「テレビに関わっていても、裏方だったのにね」
あの音声さんとカメラマンさんは各種番組に引っ張りだこ状態になっていました。墜落待ったなしの状況から生還した当事者なのです。マスコミが放っておくなんて事はありません。
「本当に心配かけました、ごめんなさいね」
由紀に抱きつかれ、お父さんとお母さんに頭を撫でられながらまったり過ごします。流石に今日は何もする気が起きません。
「そう言えばお母さん、一つだけ気になった事があるのだけど」
「何かしら?」
話を聞いた時は気付かなかったのですが、ふと思い出したので聞いてみます。
「お母さんが操縦した機体の中に宇宙も飛べる可変メカがあったような・・・」
「遊ちゃん、世の中には公表されない技術もあるのよ」
変わらぬ笑顔のお母さん。でも、恐怖を感じた私はそれ以上聞けませんでした。
後日、お世話になった横田基地を訪問し米軍の皆さんにもお礼を言わせて貰いました。あの手厚いフォローが無ければ私は死んでいた可能性が高いのです。
ミニコンサートと握手会は好評のうちに終わり、また何かあれば全力で支援すると言われました。もう何もない方が有り難いのですが、人生何があるかなんて想像もつかないので有り難く受けておきます。
その頃、都内にある某芸能事務所ではその最高責任者がテレビを見ながら感情を荒らげていた。
「だから早く移籍させろと言ったのに、まだ本人と交渉すら出来ていないとはどういう事なの!」
「申し訳ありません、何分ガードが固くユウリの情報を入手出来ません。今暫くの猶予を・・・」
社長の前で頭を下げる部下に固そうなガラス製の灰皿が当たる。鈍い音をたてて命中したそれは壊れる事なく床に落ち、少し離れた絨毯には赤い染みが点々と増えていく。
「情報を得られないなら、今ある情報から関係者を手繰りなさい。手段なんて選ばずに一刻でも早くユウリを引き込むのよ!」
「畏まりました。すぐに手配致します」
頭から流れる血を拭おうともせずに男性は退出する。社長はそれを見送ると音をたてて椅子に座った。
「稼げる道具だから引き抜けと言ったのに・・・部下が無能だから私が苦労するのよ!」
ユウリ嬢の平穏は、まだまだ遠いのかもしれない。




