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第三十八話 新たなお仕事

「では続いてBパート入ります!」


 スタッフさんが次の収録の開始を告げに来ましたが、蓮田さんは離れてくれません。

 次はロザリンドちゃんのお兄さん、ルー君のモノローグ回なので、私と蓮田さんの出番は無いので仕事的には支障無いのですが私の精神が削られていきます。


「・・・いつまでこの状態を?」


 私は普通に座っているけど、膝の上に丸い物体が二つ。蓮田さんは抱きつくのを止めてくれましたが、その頭が私の太腿に乗っています。


「ずっと。ユウリちゃんの膝、柔らかくて気持ち良いから離れられません」


「本当、柔らかくて癖になりそうだわ。もっと早くにこれを知っていれば!」


 乗っている頭は二つです。一つは蓮田さんで、もう一つはそれを見て反対の太腿に頭を乗せた桶川さんです。


 蓮田さんが椅子を並べて器用に寝転がり、勝手に膝枕をしてしまったのです。いきなりの事に硬直しているところに桶川さんが現れました。


「あら、気持ち良さそうね。もう片方が空いてるから私も」


 と言って桶川さんまで椅子を並べ膝枕状態に。アフレコの現場で先輩声優さんと自らが所属する事務所の社長さんに膝枕する声優って、私が初めてでしょうね。


 スタッフさんは「いいなぁ」とか「俺もユウリちゃんの膝枕で寝てみたい」とか言って助けてくれないし。途方に暮れていると、収録を終えた先輩方が戻ってきました。


「お、気持ち良さそうだな。代わって?」


「こっちはダメよ。私専用だから」


 朝霞さんのお願いを一顧だにせずに断る蓮田さん。私の左膝はいつから蓮田さん専用になったのでしょう?

 男性に膝枕なんて恥ずかしすぎるので却下には合意しますが、私の足は私の物です。


「こっちも私専用ね」


 蓮田さんに同調して所有権を主張する桶川さん。雇用契約は結びましたが、足の譲渡やレンタルまで同意した覚えはありませんよ。


「では、次回予告お願いします!」


 スタッフさんが私達を呼びに来ました。これでこの状態から脱出出来ます。


「えっ?もう?」


「仕方ないわね」


 渋々私の膝から離れる二人。この二人が大人気声優さんと大手の芸能プロの社長さんだと、誰が思うでしょうか。


「桶川さん、大人なんだから止めてください。蓮田さん、行きましょう!」


 名残惜しそうな二人を残し、ブースに入ります。少し遅れて蓮田さんも入り、準備完了。

 流石は経験豊富な人気声優さんです。本番になれば表情は引き締まり、仕事に集中しています。この切り替えは見習うべきだと思いますが、出来ればずっとその状態でいてください。


 お仕事モードの蓮田さんがNGを出す筈もなく、私もNGを出さずにこなせました。これまでの次回予告と先の数話分を無事に録り終え、今日のお仕事はこれで終わりです。


「お疲れ様。息ピッタリだったわよ」


「こんな可愛い子とやれるんだもん。張り切るわ!」


 上機嫌な蓮田さん。先輩に気に入られるのは良いことではありますが、少々距離が近すぎるのが気になる所ではあります。


「ほんと、ラジオも楽しみだわ。ユウリちゃんとやれると思うと夜も眠れないわ」


「夜はちゃんと寝てくださいね?・・・って、ラジオ?」


 それって、私がラジオ番組に出演するということでしょうか。そんな話は聞いていないので桶川さんを見ると、あからさまに目を逸らして笑いを噛み殺しています。


「あら?桶川さん、まだ言ってなかったの」


「驚かせようと思って。人生に驚きは必要よ」


 それを否定はしませんが、仕事の連絡事項は別です。そういうのはプライベートでやって下さい。


「ユウリちゃんと蓮田さんで、ウェブラジオのパーソナリティーやってもらうの。これは確定事項よ」


 ゲスト出演かと思いきや、まさかのパーソナリティーでした。ちょっと前まで極普通の女子中学生だった私に、ラジオのパーソナリティーをやれなんて無茶振りにも程があります。


「頑張ろうね、ユウリちゃん!」


 嬉しそうに手を握る蓮田さん。無茶振りをされ、自称お茶目なイタズラで心の準備をする期間を削られた私には返事をする余裕はありません。


 虚ろな心で先輩方に挨拶を済ませ、収録からの帰りの車の中。逆転する裁判の弁護士さんさながらに桶川さんを問い詰めます。


「桶川さん、ラジオってどういう事ですか?」


「ラジオって言っても、ウェブラジオだから緊張しなくても大丈夫よ。アニメの宣伝番組だから気楽にね」


「その番組、アニメの視聴率に影響しません?」


「それは勿論、宣伝番組なんだから影響するわ」


 ラジオの出来でアニメの視聴率に影響するのに、気楽にやれと言われて気楽に出来るでしょうか。


「何故私にそんな大役が?」


「新人でギャラが安いから」


 身も蓋もありません。しかし、大御所の蓮田さんがいるので相方は無名の新人でも何とかなるし制作費も浮くと計算したのでしょう。


「・・・というのは冗談で、脳力試験で受けが良かったかららしいわ。ユウリちゃん、本当に強運ね」


「確かに運は良いのでしょう。けれど、いきなりパーソナリティーなんて無茶振りされて素直に喜べないわ」


 声優に憧れてなった人ならば小躍りして喜ぶのでしょうけど、私は拉致されて声優となった変わり種です。


「こう次から次へと仕事が入るなんて、普通ありえないわよ?」


「せめて事前に教えて下さい」


「あはは、次からそうするわ。そろそろ着くわよ?」


 誤魔化された感はありましたが、このまま帰る訳にいかないのも事実です。慌てて髪を三つ編みにして結び、眼鏡をかけます。


「ラジオは毎週土曜日に録るから。じゃ、お休みなさい」


 私を降ろして走り去る桶川さん。今日は色々な意味で疲れました。

 ラジオでどんな事を話すのかなど、調べるべき事はありますが情報源は由紀か友子です。どちらにしても長い話になりそうなので、明日に回してしまいましょう。

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