第三百五十九話 男親
俗にいうお姫様抱っこをされています。結構腕力ないと出来ない芸当なのですが、お父さんは平然としています。仕事で部屋に引きこもってるお父さんが軽々やるなんて意外でした。
「お父さん、力持ち」
「筋力がないと、金属の全身鎧なんて着れないわよ。お父さんはあの鎧を着て戦場を駆け回ったんだから」
由紀に得意気に話すお母さん。言われてみれば、お父さんはあの鎧を着てお母さんと戦場を走っていたのでした。
「今日はもう休みなさい、話は明日だ」
「うん、ごめんね」
動かない自分の体がもどかしい。心配してくれた皆と話したいのですが、この状態では逆に心配をかけてしまいます。
お父さんは私をベッドに腰かけさせてくれました。しかし、寝る前にメイクを落として着替えなければなりません。
「後は私がやるわ。お父さん、ご苦労様」
「いや、着替えさせるのに力仕事もあるだろう?」
さっさと部屋を出ろと暗に言うお母さんに、お父さんは抵抗します。しかし、そんなお父さんにお母さんと由紀の追撃が加えられます。
「年頃の娘の下着姿を見たいと?」
「お父さん、それは無いわぁ」
お母さんと由紀の視線が、氷点下を遥かに超えて絶対零度に達しました。これにはお父さんも怯み、戦略的撤退を選択せざるを得なくなりました。
「そ、そうだな。遊、お休みなさい」
大人しく退散したお父さん。お母さんと由紀は部屋の鍵をかけると笑顔で私に向き合いました。背中を冷たい汗が伝い落ちます。
「さあ、着替えましょう」
「ゆっくり、じっくりと、ね」
私はお母さんと妹に着替えさせてもらっただけ。そしてメイクを落として貰っただけです。ただそれだけの話で他に何かあった訳ではありません。無いはずです。無いと思いたいのです。
「・・・?」
目が覚めると部屋の中は明るくなっていました。窓から射し込む光から察するに、お昼近くになっているようです。起きようとしましたが、体が動きません。正確には、縛られているかのように腕と足が拘束されているのです。
「金縛り・・・なわけないわよね。由紀、起きなさい」
「ぐうぐう、ぐうぐう」
布団の中で抱きついている由紀。ぐうぐうと鼾をかいていますが、完全に起きているでしょう。
「何で布団の中に入っているの?」
「だって、心配だったんだもん」
昨日は心配をかけたうえに、帰ってすぐに寝てしまいました。それを考えれば添い寝をされた位は許容範囲と見るべきでしょう。
「それは謝るわ。でも、お腹すいたから離してね」
昨夜はあの騒動で晩御飯どころではありませんでした。二食抜いた形になるので流石にお腹が減っています。
「そうだった、朝御飯だから起こしに来たのよ」
由紀はご飯だと起こしにきて、そのまま布団に潜り込んだようです。今が昼近くとすると、お母さんとお父さんはどれだけ待たされているのでしょう。
「ちょっ、どれたけ時間経ってるのよ?」
「そんなに経ってない・・・と思う」
どちらにしても、リビングに行きましょう。ここで話していても更に両親を待たせるだけなのですから。
「遊、おはよう」
「起きたか。よく寝てたみたいだな」
お父さんとお母さんはリビングで待っていてくれました。昨日の件も含めて謝らないといけませんね。




