第三百五十六話 集まる報道
「それに、状況を聞くと花火大会に集まった群衆の真っ只中に墜落する可能性が高かったのでは?」
「「「あっ!」」」
私達は花火大会の中継のためにあの場所を飛んでいました。真上を飛べば花火の直撃を喰らうので離れてはいましたが、墜落する機体は真っ直ぐ下に落ちる訳ではありません。会場に集まった人達の頭上かその直近に落ちた可能性は充分にありました。
「大惨事を未然に防いだあなたたちは胸を張るべきです。普通なら何の対処も出来ずに墜落してますよ」
「それはユウリさんの手柄ですよ」
「俺達は何も出来なかったからな」
二人の声に取り囲んだ軍人さん達から拍手が起きました。少し照れますが素直に称賛を受け取ります。
「ところで、門の外に日本のテレビ局が殺到してますよ」
指差された先を見ると、離れていても判るくらいの喧騒が基地の入り口を包んでいました。ゲートを守る軍人さんと入れろ、入るなと揉めています。
「あれ、間違いなく私たちへの取材よね」
「情報広まるの早いなぁ」
「何処からかリークされたかな?」
政府筋や空港関係者には、今回の件は広まっているはずです。その中の誰かがマスコミに伝えたのでしょう。
「あ、着信が」
「俺もだ」
音声さんとカメラマンさんが携帯を取り出します。私にも着信が入っていました。履歴を見るとお母さんからです。
「あ、先生。お陰様で無事に生還出来ました。ありがとうございました」
「良かったわ、ユウリちゃんが無事で本当に良かったわ」
お母さんの声は涙ぐんでいました。その声の背後からお父さんと由紀の声も聞こえます。不可抗力とはいえ、皆にはかなり心配かけてしまいました。何が埋め合わせを考えなくてはいけません。
「慣れない事をやって相当疲れたはずよ。親御さんも心配しているでしょうし、帰ってお休みなさい」
「そうですね、そうさせて頂きます。お礼は後日改めてお伺いします」
世間では他人なので、こんな回りくどい会話をしなくてはなりません。こんな時は正体を隠している事が嫌になります。
「局から早く戻ってこいと矢の催促だよ」
「ああ、ユウリさんは操縦して疲れたでしょうから、帰った方が良い。局もそう言っていたしな」
どうやら報道特番の様なものを組むようです。番組的に考えれば当事者の私も出演させた方が良いと思うのですが、気遣ってくれたのでしょう。
「ありがとうございます。この事件関係の番組に出る時はそちらを優先して貰えるよう社長に頼んでみますね」
気遣ってくれた恩には誠意で返したい。とは言っても、スケジュールを自分で決められないから断言出来ないのが辛い所です。




