第三百五十五話 地上への生還
昼のように明るく照らされた滑走路に向かって降下していきます。機首を下げるのではなく、エンジンの出力を絞って速度を落としました。今の所は順調なようで少しづつアスファルトの滑走路が近付きます。
前を行くP-61が滑走路に着地すると同時に加速、また飛び上がりました。所謂タッチアンドゴーという行為で、普通は着陸の訓練の時や着陸のやり直しをする時の機動です。
今回は後に続く私達の機体の邪魔にならないよう道を空けてくれるため行ってくれました。
もうすぐ着地します。僅かに機首を上げて前輪から降りないように注意しないといけません。前輪は1つな上に多少小さいので、前輪から降りると負荷に耐えられず折れてしまうことがあるのです。
ドンッ!という音と共に後輪が地面に着いた衝撃が感じられました。続いて前輪も接地したようで、機体は滑走路を走ります。
エンジンの出力をゼロにして、勢いのまま滑走します。車と違ってブレーキなんか無いので、急には止まれません。ジェット機の場合は逆噴射して減速出来ますが、プロペラ機では出来ません。
「ふう、無事に着地出来たわ。後は止まるのを待つだけね」
操縦悍を微妙に操作して、直進するように微調整を行います。プロペラ機は回転するプロペラの影響で右か左に逸れていくのです。
プロペラが右回りの機体は右旋回が、左回りの機体は左旋回がしやすかったりします。
ゆっくりと進むセスナに救急車や消防車が追走します。やがて止まった機体をそれらの車が取り囲みました。
「病人を早くお願い!」
操縦席のドアを開けて叫ぶと、後部ドアから倒れたパイロットさんが救急車で運ばれていきました。未だ意識は無いようですが、命に別状はないとのことです。
「これで肩の荷が下りたわ」
「俺達、よく生還できたよな」
「普通だったら墜落して全員死亡コースだよなぁ」
全くです。たまたま全てが上手くいったので助かる事が出来ましたが、少しでも対応を間違えていたら墜落していてもおかしくなかったのです。
「操縦を教えてくれた北本先生と、誘導してくれた米軍の皆さんに感謝ね」
お母さんが計器の見方等を教えてくれなければとても操縦なんか出来ませんでした。そして、米軍の誘導が無ければ着陸なんてとても無理でした。
「それに、ユウリさんの機転と同乗したお二人の救命措置があればこそです。機内での蘇生措置がなければ、パイロットは死んでいたでしょう」
米軍の人に言われ、カメラマンさんと音声さんが照れています。軍人さんの言う通り、パイロットが助かったのは彼らの功績です。




