第三百五十四話 母のキャリア
「今は携帯があるから便利ねぇ。私の時はそんな物無かったから」
「先生は外国で操縦経験がお有りなんですよね」
お父さんと戦場巡りをしていた時に、飛行機の操縦をしたことがあったそうです。それもあってお母さんに電話しました。
「覚えているだけでも95式戦闘機、F2-Aバッファロー、フェアリーフルマー、bf109、mig21、零式三座水偵、サーブ35ドラッケン、VF1Sバルキリー、F-5Eタイガー、C-135ER空中給油機にも乗ったわね」
お母さんの操縦歴の多さに、私はもちろん後ろの2人も呆れています。スピーカーモードで話していたので会話丸聞こえなのです。
「偵察機から空中給油機までって、どんな人生歩んできたらそんな経験出来るんだ?」
「あら、女の人生に秘密は付き物よ?」
カメラマンさんの呟きはお母さんにしっかりと聞こえたみたいです。からかうような口調で返されてしまいました。
「そういう問題じゃないような気がする・・・」
音声さん、それは私も同感だけどそのお陰で私達は助かる確率が上がってるのです。お母さんの凄まじい過去がなかったら米軍に支援を頼むなんて出来なかったでしょう。
E-2Cに見守られ、P-61に先導されて星空の下を飛びます。ある意味贅沢で、二度とは出来ない体験でしょう。
「・・・何か、星が多い気がするわ」
「ああ、それはきっと排気炎ね。Fー14とFー16の編隊も周囲にいるはずだから」
排気炎とは、ジェット機がエンジンの後ろから出す炎のことです。どうやらジェット機まで護衛についてくれているようです。
「ちょっと、Fー16は兎も角Fー14は海軍機だったような気が・・・」
海兵隊でも使用していたような覚えがありますが、沖縄からここまでは飛んで来ないでしょう。何処から来たのでしょうか。
「空軍だけに任せられるかと意気込んで、横須賀沖から来たらしいわよ」
非常事態ではありますが、米軍が一般人のためにここまでするでしょうか?まあ、お母さんの影響力がそれだけ大きいのかもしれません。
「随分と大袈裟なような気もするけど、好意は有り難く受け取るわ。あ、降下に入ったわ。通話は中断するわね」
先導のP-61が高度と速度を下げていきます。それに倣い私も慎重にエンジンの出力を下げました。ここで速度を下げすぎると失速して一気に墜落してしまうので、慎重に操作を行います。
降下していく先には、大量のライトに照らされた広大な米軍基地の滑走路が見えてきました。その脇には消防車の物らしき赤灯も見えます。あれの出番は無いようにしたいわね。
例えマスコミが取材用セスナを飛ばしても近寄らせない鉄壁の布陣です。




