第三百五十三話 最善を探る
「分刻みでスケジュールが埋まってる上に、着陸待機の旅客機が何機も空中待機してる空港よ。小型とはいえいきなり割り込めるはずがないわ」
「でも、1機位なら・・・」
1機が着陸して、エプロンに滑走するだけなら何とか割り込めるかもしれません。しかし、そう簡単な話では終わらないのです。
「無事に着陸出来る保証があるなら可能でしょうね。でも、失敗して墜落したらどれくらいの時間滑走路が閉鎖されるかしら?」
破壊された機体を撤去し、散らばった部品を全て除去しなければ滑走路は使えなくなります。その後降りてきた飛行機が残った部品を踏めば、パンクして滑走路を外れる事故が発生するかもしれません。
それを防止するために徹底的に点検した場合、一体何時間かかるでしょうか。その間ずっと滑走路は封鎖されてしまうのです。
「墜落前提で考えてるのかよ、堪らんなぁ」
「夜間に素人の操縦なのだから、それが当然よ」
飛行機の操縦で最も難しいのが着陸です。それを難易度の高い夜間に産まれて初めて操縦桿を握った女子高生が行うのですから、着陸失敗を想定しない方がおかしいのです。
「ならば、飛行場ではなく、海に着水したら?」
確かに、海ならば他の飛行機を妨げる事にはなりません。しかし、考えが甘すぎます。
「高速で突っ込めば水面はコンクリート並みの固さに変わるわよ。失速限界の速度でも機体なんてバラバラね」
ついでに、水面は光を吸収するので高度が判り辛く逆に難易度が高くなります。なので失敗して命を落とす確率は上ってしまうのです。
「もしも無事に着水出来ても、救助は難しいわよ。失敗時の事を考えると救助用の舟はあまり近くには配置出来ないし」
夏場なので凍死の心配はないと思われます。それでも着水後に溺れる危険性もあるのです。
着陸に関する論議をしていると、右横から識別灯を灯した飛行機が近づいてきました。機体は真っ黒に塗装されていて形がよく見えません。
「どうやらお迎えの機体みたいね」
「真っ黒い飛行機って、見辛いなぁ」
私たちの機の前に出てバンクした機体を追って飛びます。バンクとは機体を揺らして合図を行う事を言います。
「あれはP-61ブラックウィドウね。夜間戦闘機だから黒い塗装なのよ」
「黒い未亡人」という名の通り真っ黒な機体です。あれが白かったら看板に偽りありということでJAROに電話しましょう。
「もしもし、ユウリちゃん。そろそろお迎えの機と合流出来たかしら?」
「目の前をP-61が飛んでいるわ。またレアな機体を出してきましたね」
「その機体をトレースすれば大丈夫よ。あなたなら絶対に出来るから、自信をもってね」
基地までの航路や着陸時の降下角度、降下速度を示してくれるみたいです。目の前で見本を見せて着陸の成功率を上げようという配慮のようです。
「絶対に成功させるわ」
お母さんと米軍がここまでやってくれたのです。無事に帰って米軍とお母さんにお礼を言わなくてはなりません。




