第三百四十九話 大空からの中継
「こちらの競艇場では、花火大会が開催されています。ご覧ください、色とりどりの花火が咲き乱れています」
女性レポーターから空へとカメラが向けられます。漆黒の夜空には次々と花火が開きました。その度に爆発音が響きます。
「集まった人達は見事な花火に酔いしれています。あっ、特別レポーターが到着したようです呼んでみましょう」
「はい、こちら上空のユウリです。今、私の目の前で光の花が咲き誇っています」
地上からの呼び出しを受けてレポートを開始します。カメラは飛行機の窓から外を撮影していました。
「地上から見る花火も綺麗ですが、空から見る花火はまた格別。大迫力の光景です!」
とはいえ、花火が炸裂する度に機体が衝撃で小刻みに揺れていて中々のスリルを感じます。少し近すぎるような気がするのですが・・・
「ユウリさん、ありがとうございました。またお願いしますね」
「はい、一度中継をお返しします」
中継を地上に返し、こちらは一休みとなりました。カメラとマイクの入力が切れた事を確認します。
「パイロットさん、ちょっと近すぎないですか?」
「はっはっは、今日は別嬪さんを乗せているからサービスだよ。おじさん、普段の5割増で頑張ってるからね」
そんな方向で頑張らないで欲しいのですが、空気を読んで沈黙します。そんな私の内心を余所に、地上と上空からの二元中継は好評のうちに終了しました。
「では飛行場に戻りま・・・」
飛行場に進路を取るため旋回した機体が、グラリと揺れました。次の瞬間、降下を始めます。
「ちょっ、こんなサービスは・・・」
アクロバット飛行でサービスしようとしたパイロットさんを嗜めようとした私は、急いで体を固定しているベルトを外しました。パイロットさんは意識がないようで、操縦桿に凭れています。
降下角度を増し前のめりになる機内で上半身を伸ばし、パイロットさんの肩に手をかけ引っ張りました。パイロットさんは引かれるままに体をずらしましたが、機体は降下を続けていきます。
更に上半身を伸ばして操縦桿を引きました。どうにか間に合ったようで、機体は降下が止まり弛い上昇に移りました。左手で操縦桿を保持し、右手でパイロットさんのシートベルトを外します。
「原因は分からないけど、パイロットさんが意識不明に陥ったわ。後ろに引っ張って!」
いきなりの出来事に硬直するカメラマンと音声さんに怒鳴ります。2人は現状を把握出来てないみたいでしたが、怒鳴り声に従ってパイロットさんを後ろに引っ張ってくれました。
ユウリちゃんは血の代わりにオイルは流れていませんし、シャルル・ド・ゴール空港に着陸もしません。




