第三百四十七話 フラグ
「昨日、ここらでジャパンのTV撮影がされてたってニュース知ってる?」
男Aがニヤけながら聞いてきました。どうやら昨日の決勝の事を言っているようです。
「俺達、ジャパンのアイドルに会ってみたいんだよね」
この人達の目的は、私か朝霞さんでしょうか。朝霞さんご私を庇うように前に出ます。
「会って、どうしたいのかな?」
緊張した面持ちで朝霞さんが聞きました。彼らは両手をポケットに入れています。その手に銃を持っている可能性は否定できません。
ジャケットのポケットに銃なんて入らないと思う方も居るかもしれませんが、世の中には掌に納まるサイズの銃もあります。デリンジャーという2連装の銃で、護身用だけど殺傷能力は充分にあるのです。
「Oh!もしかしてYouは!」
私を庇いように前に出た朝霞さんを見て2人が大仰に驚きました。大きな叫び声に私と朝霞さんは身構えます。
「ディルクさ~ん!それにロザリンドさ~ん!」
朝霞さんと私が誰かを知って叫んだのは、芸名ではなく演じている役名でした。
「悪なりは毎週見てま~す!」
「一度声をやっているアイドルの2人に会いたかったで~す!サインお願いしま~す!」
2人は揃ってポケットからサインペンを取りだし差し出してきました。こちらに対する害意は無いようで、心配は杞憂に終わったみたいです。
着ていたシャツにサインをして握手をすると、2人は早口で語りながら去っていきました。その後はすぐにスタッフさんと合流した為無事に帰りの飛行機へと乗れました。
「3人供元気無いけど、どうしたの?」
「ちょっと運動しただけですよ」
帰りの飛行機の中。怪訝そうなスタッフさんに簡潔に答えました。ファンの2人の事で精神的にも疲れているかもしれませんが、不確定な情報は流しません。
「自由の女神に上ったんですよ、だからバテてます」
「自由の女神?彼らは高所恐怖症?」
自由の女神の実情をスタッフさんも知らないようです。一応入り口にエレベーターがあるので、途中で階段になることや帰りは全て階段だと広まっていないのかもしれません。なので自由の女神の内情を朝霞さんが説明しました。
「最近の若いのは軟弱だな。階段上り降りくらいでバテるとは」
「あの狭い階段の苦労は、実際に降りてみないとわかりませんよ・・・」
「そういうのは、体験してから言って下さい・・・」
3人は弱々しく反論しますが、頭を下げて半端な体勢で階段を登り降りするという体験が無ければ理解はしてもらえないでしょう。
「ユウリちゃん、日本に帰ったら夏休み終わりだね」
「仕事だから仕方ありませんよ。せめて残った休みは満喫します」
夏休みはほぼこの撮影で使ってしまいました。だけど、数日は休みも貰える予定なのでノンビリ過ごそうと決めています。
「ユウリちゃんの事だから、何か起きそうな・・・」
「朝霞さん、マジで変なフラグ立てないで下さい!」
そういうフラグを立てられてしまうと、回収されてしまいそうで洒落になりません。神様、私に平穏な生活を与えて下さい!




