第三百四十六話 無慈悲な現実
「見ての通り展望室は狭いから、降りないと登ってきた人達が往生するのよ。あの階段で先が詰まって登れないなんて迷惑この上ないでしょう?」
そう諭せば3人とも納得してくれました。広大な大西洋を望める窓際から、狭く降りにくい螺旋階段へと向かいます。
「こ、これは・・・」
「行きよりキツいわね!」
誤解している人が多おのですが、階段は上るより降りる方が大変だったりするのです。特に、高さが低い階段は降りるのがかなり大変です。
「へこんでいる3人に、悲しいお知らせです」
「ユウリさん、出来れば聞きたくないです」
既に泣きそうな大麻生さん。彼はちょっと運動が苦手みたいです。しかし、情け容赦なく彼らへ現実を突きつけられるのです。
「言っても言わなくても現実は変わらないからね。帰りはエレベーターは無いわよ」
「え゛え゛っ゛!」
「そんなっ!」
「神も仏も居ないのかっ!」
朝霞さんが突きつけた、残酷な現実に、3人が絶望しました。それでも降りる足は止まっていません。後ろから降りる人が沢山来ておるので、止まってしまうとブーイングの嵐を浴びせられてしまうのです。
「冗談じゃなく、地上までこのままよ。だから私と朝霞さんは乗り気じゃなかったのよ」
この事はあまり知られていないようです。この有名クイズの決勝に残るような人達なら知ってると思ったのですが、彼らは誰一人この事実を知っていませんでした。
「「「聞いてないよ~」」」
泣きながらハモる3人。ちょっとネタが古くない?と突っ込みたくなりましたが辛うじて自制しました。
「や、やっと着いたわ」
「もう2度と登らないぞ!」
「・・・死ぬ」
苦行を終えて地上に戻れました。3人供座り込み、足はガクガクと笑ってます。
「ユ、ユウリちゃんは元気だねぇ、息も切れてないし」
「一応鍛えてますから」
色々手を出した体力系の修練は、今も続けています。毎日全部は出来ないので日替わりなのはご愛嬌ということで。
「色々知ってるし、体力あるし。ユウリさんがこのクイズに出てたらぶっちぎりで優勝するんじゃないですか?」
「どうでしょう?運のよさは分かりませんから」
例えば、ばら蒔きクイズでハズレばかり引くなんて事も有り得ます。色々なトラブルに巻き込まれる私はお世辞にも運がいいとは言えないと思うので、優勝出来るかどうかは微妙な線でしょう。
「そろそろ空港に行く時間だし、行きましょう」
「も、もう少し休憩を・・・」
3人はまだへばっていますが、ここは日本より治安の悪いアメリカです。トラブルに遭わない為にも移動しておきたかったのです。
「ヘ~イ、嬢ちゃん達はジャップかい?」
「だったら教えて欲しい事があるんだけど」
クチャクチャとガムをかみ、ジャケットに手を突っ込んだ白人さんに絡まれました。お約束な展開ですが、こんなお約束はいりません。




