第三百三十三話 伝説の番組
「朝霞さん、私はこんな飛行機に乗る事になるとは思いませんでしたよ」
「それは僕もだね。でも、こんな仕事やってたら何でも有りだよ」
「Oh、サスガハジャパンノトップノセイユウサンデース。コノバクオンデモハッキリキコエマース!」
乗り心地の悪い、固いシート。機体内にはエンジンの奏でる爆音が響いてろくに会話も出来ません。私と朝霞さんはレシプロエンジンを使ったプロペラ機に乗っています。
「ユウリちゃん、そろそろ降下地点だよ」
「はい。パラシュートの準備は出来てます」
座席のベルトを外し、爆弾倉へと歩きます。搭乗口ではなく爆弾倉という事からお判りかと思いますが、私達が乗っているこの飛行機は爆撃機なのです。
「コウカチテンニツイタ、イッテラッシャイ!」
操縦士さんが開いた爆弾投下倉から飛び降りめす。乗ってきたB-24が小さくなっていくのが見えました。
見下ろす地面には、沢山の人が私たちを見上げています。私は開いた手足を使い、朝霞さんとの距離が開かないよう降下します。
バサッという音と共にパラシュートが開きました。横にいる朝霞さんのパラシュートには「北米横断」、私のパラシュートには「スペシャルクイズ」の文字が書かれています。
ピンマイクのスイッチを入れて、今回受けたお仕事を開始します。
「みんなお待たせ。マンハッタン島へ行きたいか!」
「「「「おお~っ!」」」」
芸能界に入り司会生活1年少し経ちました。そんな新人司会者の私が初めて受けた空中司会の始まりです。
さて、何で私がアメリカくんだりまで来て空中遊泳しているのでしょうか。それは夏休み直前まで話が遡ります。
「ユウリちゃん、パスポート持ってる?」
「北本遊のパスポートは持ってますよ」
顔を出すなり、パスポートの所持を聞いてくる桶川さん。その意図は分かりませんが、偽る意味もないので正直に答えました。
「この夏にクイズ番組の特番を組むのよ。その司会をユウリちゃんと朝霞さんがやることになったわ」
「クイズの特番を態々海外でやるんですか?」
番組対抗など、クイズの特番は結構あります。しかし、海外で収録する番組に心当たりはありません。
「ユウリちゃんは知らないのね。ジェネレーションギャップを感じるわ」
昔、クイズをしながらアメリカを横断する名物番組があったこと。それの復刻をするにあたり、クイズの司会者として定評のある朝霞さんと私を指名したことを桶川さんはため息をつきつつ教えてくれました。
「朝霞さんが評価高いのは分かりますけど、私はまだ司会歴1年のヒヨッコですよ?」
「それでも朝霞さんと組んでの脳力試験の評判は上々よ。人気も高いし、外す要素は無いから是非にと言われたわ」
そこまで評価を頂いて断る訳にはいきません。興味があった事もあり仕事を受ける事になりました。




