第三百三十二話 再起
そんなこんなで昼休みになりました。久喜さんも完全にクラスに溶け込み、芸能界での苦労話などを披露しています。
「男のふりして芸能人やるって大変なのねぇ」
「心労も凄かったでしょう」
クラスの皆は同情的です。正体隠して芸能活動するのは大変なのです。私は自分の都合で隠しているので仕方ないのですが。
「まあ、それも大変だったけどユウリちゃんに抱きつきたくなる衝動を抑えるのが一番苦労したわ。だって、目の前でにっこり微笑んでくれるのよ」
「「「「それはわかる。でも羨ましい!」」」」
久喜さん、変な苦労背負い込まないで下さい。そんな衝動を抱えているとは知りませんでした。これからはKUKIさんに会っても距離を置く事にしましょう。
「久喜さん、女の子からラブレター貰って嫌だと言ってなかった?」
「それはそれ、これはこれ。ユウリちゃんは別格よ」
ちょっと、自分が嫌な事はしてはいけませんと習わなかったのでしょうか。重大な問題を残しつつも、学校での久喜さん問題は終息しました。
「これからの芸能活動はどうするの?」
「仕事の予定はリセットね。女として登用してくれる番組があるかわからないから」
自身は芸能活動を続ける意志はあるようです。しかし、今回の問題で干されてしまう可能性はあるのです。
「皆さんお騒がせしました。改めて宜しくお願い致します」
KUKIさんは1月ほど活動を自粛しました。その後いくつか獲得していたレギュラーを外されたりしましたが、干される事なく女性タレントKUKIとして再出発出来たのです。
「色々大変だったと思うけど、また頑張ってね」
「復帰おめでとう。これからも宜しくね」
脳力試験の収録スタジオで会った彼女は晴れ晴れとした良い表情をしていました。朝霞さんやレギュラー解答陣も暖かく迎え入れます。
「性別をバラして良かった事があるんですよ」
にっこりと笑ったKUKIさんが抱きついてきました。距離を置こうと思っていたのですが、お祝いムードで油断してしまいました。
「女の子同士なら、こうやって抱きしめられる!男だとできませんからね!」
「ちょっ、女の子同士でも自重して!」
私はノーマルなのてす。そういうのは同好の士とやってください。
「ユウリちゃんは人気あるからねぇ」
「くっ、羨ましい!」
「朝霞さん、笑ってないで引き剥がして!プロデューサーさんも羨ましがってないで!」
救いの手を求めるも、その願いは無惨に黙殺されました。どうやら私の味方はここには存在しないようです。
「それでは撮影始めます!」
「ちょっ、このままですかぁ!」
楽しいスタッフや共演者に囲まれて、今日もユウリは平常運転です。




