第三百二十九話 段ボールのお約束
「友子、偵察お願いね」
「了解よ。この魔法のアイテムがあれば、どんなミッションも楽々クリアよ!」
自信満々な友子が鞄から取り出したのは、大きな段ボール箱でした。段ボールの方が鞄よりも大きいのですが、今更なのでスルーします。
「一応聞くわ。それをどうするつもり?」
「何を決まりきった事を言ってるのよ。こうする以外に何があると言うの?」
当然だと言わんばかりに段ボールを被る友子。そのままガサゴソと正門目掛けて前進していきました。左右に蛇行しながら正門に迫る段ボールは目立ち、当然学生や記者の目に止まります。
「あら、何あれ」
「ただの段ボールだな」
そこにいる誰もが一瞥するのですが、誰もがそれを意識から外してしまいます。
「段ボールには無視しなければいけないという法律でもあったかしら?それとも、あの段ボールが特別なの?」
友子が出した物なので、まともなアイテムではない可能性も高いのです。
私の心配を余所に怪しい段ボールは無事に正門の中へと消えていきました。更に待つこと数分、待ちわびていた友子からの着信が入りました。
「遊、クラスの前は見物に来た他クラスの人間で一杯よ。始業と同時に来る位が良いわ」
「ありがとう、HRギリギリに行くわ」
私のクラスに見物人というあまり歓迎出来ない報告です。平穏な学園生活も終わりを告げてしまうのでしょうか。時間潰しにスマホでテレビをチェックしてみました。
「こちら現場です。夏風高校正門前には、ご覧の通りマスコミが詰めかけています。学校に通う生徒もこの事を知らなかったようで、戸惑いを見せています」
「ありがとうございました。動きがあり次第中継をお願いします。では、問題になった映像をもう一度見てみましょう」
スタジオの司会者の言葉でVTRが流されます。テレビでお馴染みの芸能人が変装を解き、女子高生に戻る姿が盗撮されていました。そこで友子からの着信が入りました。
「遊、そろそろ来た方が良いわよ」
「そうね、すぐに行くわ」
スマホをしまって塀を飛び越えます。ジャンプの瞬間に両足に気を込めて強化するのがコツで、楽々飛び越える事が出来ました。あの映画の撮影前はここまで出来なかったので、それはあの監督に感謝すべきかもしれません。
教室に向かうと、先生と鉢合わせしました。
「北本、珍しく遅いな。まぁ、あのマスコミの量では仕方ないか」
生徒はいなくなったというのに、正門のマスコミはその数を減らしていません。相変わらず学校を撮影し、レポーターが騒いでいます。
「まったく、他人のプライバシーなんだから放っておいてほしいですね」
先生に返事をしながら教室に入り、自分の席につくとすぐにHRが始まりました。




