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第三十五話 高校へGO!

 そして翌日。身支度を整え一階に降りると、洒落たワンピースを手に待ち受けるお母さんが居ました。



「お母さん、高校に行くのにユウリにはならないわよ?」


「でも、その後アフレコでしょ?だったら制服はまずいんじゃないの?」


「アフレコは夕方からよ。いくらなんでもそんなに時間掛からないだろうから、一度家に帰るわよ」


 そうでなかったら、高校に行く日をずらしています。服装だけでバレるとは思えませんが、念には念を入れて身バレを防ぐという意思が大事なのです。


「そう・・・帰ってきたら言ってね?」


「とにかく行ってきます!」


 はっきりとした返事をせず家を出ました。夜が怖いけど、何とか誤魔化しましょう。


 歩いて駅に向かいます。私が通う高校は、家から電車で二駅のところにあります。

 電車を降りて、さらに歩いて十分程。春から通う、私立夏風高校が見えてきました。


 この時間は授業中なので、生徒の姿は見えません。受付で来訪の趣旨を告げ、来校者カードをもらい首から下げると校長室の場所を聞きました。


 校長室は二階に上がったところだったので、すぐに着きました。ドアをノックし、返事があったので入室します。

 中に入ると、気の良さそうなおじさんがいました。この方が校長先生でしょうか。


「私、来年度からこちらの生徒になる、北本遊といいます」


「私が本校の校長です。連絡が来てますよ、なんでもアルバイトの申請をしたいとか」


「あの・・・母から詳しい話を聞いていませんか?」


「詳しくは本人から聞いてくれと言われましたよ?」


 どうやらお母さんは、私が声優となった事を伝えていないようです。まず、そこから話さなければならないでしょう。


「あの・・・」


「校長!」


 話し出そうとしたときタイミング悪く誰かが入ってきたので、出鼻を挫かれてしまいました。入ってきた男性は、私を無視して話を続けます。


「夏コミに出す新刊の打ち合わせを・・・おっと失礼、来客中でしたか」


 気付いてくれたようですが、不穏なセリフがあったような気がします。私の聞き間違いであって欲しいと切に願います。


「教頭先生、丁度良かった。こちら、アルバイトの申請に来た北本遊さんだ。一緒に話を聞いてほしい」


 乱入してきた男性は、教頭先生のようです。校長と教頭が一緒になって同人誌作ってる学校・・・不安を覚えて顔がひきつるのが自覚出来ました。


「さて、北本さん。推薦入学が決まった時に申請をしなかったのは何故ですか?」


 真剣な顔つきになった校長先生が聞いてきました。趣味は兎も角、仕事に対しては真面目な先生なのでしょうか。いや、学校で同人誌を作っている段階で真面目とは言えませんね。


「仕事することになったのが、その後だったからです」


「なるほど。で、どんな仕事をするのですか?」


 言わない訳にはいかないとはわかっていますが、この人達の趣味を知った今、話したくないと思うのは私だけではないでしょう。

 しかし、そうもいかない事は重々承知しているので、覚悟を決めて言うことにしました。


「・・・声優です」


 そう言った瞬間、二人の目が光ったような気がしました。体勢も前のめりになり、先程までとは真剣さが段違いです。

 二人が纏う雰囲気は、由紀や友子のものと同質のもので私の第六感が全力でここから逃げろと告げています。


「ということは、我が校に通いながら声優の訓練を受けるのですか?」


「実は・・・もう仕事をしています」


 二人は顔を見合わせました。これから高校に入ろうという生徒が、既に就労しているというのは問題なのでしょう。

 ここが普通の高校ならばまだ良かったかもしれませんが、この近辺ではレベルの高い進学校なのです。上位の大学目指して勉学に励む学舎に所属しておいて、学業に全力を傾けず働くのならば他校に行けと思う生徒や父兄も出るでしょう。


「もうデビューしてるのですか?」


「・・・マズイですか」


 内定取り消しでしょうか。芸能人やその卵に特化した学園もあると聞きました。そちらへの受験を薦められるかもしれません。しかし、この時期になってから志願を出せるのでしょうか。


「いえ、子供達の将来の選択肢を広げるのが我々の仕事です。

進む道を決めているのなら、それを後押しする。それだけです」


 入学を取り消される事はないようで安堵しました。しかし先程の会話を聞いているので、言葉の通りに受けとる事が出来ません。


「ありがとうございます。それを聞いて安心しました。・・・で、本音は?」


「声優さんと生で会えるチャンスを逃がしてたまるか!」


「あわよくば、アフレコ現場に見学に!」


 ちなみに、最初が校長先生、後が教頭先生の本音です。やはり由紀や友子の同類だけあって、思考の方向性が同じなようです。


「・・・他の高校受けようかしら」


 県内随一の進学校という触れ込みのこの学校に、巨大な不安を覚えた瞬間でした。

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