第三百二十八話 夏風高校の芸能人
授業中もそれとなく探ってみると、不審者は学校の見張りを続けていました。それでもこちらに接触してくる気配はないし、正体を悟られるようなボロも出していない自信があったのでいつも通りに授業を受けます。
こちらからチョッカイ出して詮索されたら厄介な事になるかもしれないので、能動的なアプローチもしません。そんな日が続いたある日、異常が起きました。異常が消えたと言うべきかもしれません。
「不審者の気配がないわ」
「遊の索敵を誤魔化す程の隠密スキルを取ったって事?」
「友子、ゲームではなく現実よ。私でも感知出来ない凄腕に代わったか、いなくなったかの2択ね」
私の感知能力はお母さんも絶賛するレベルになっているので、感知出来ないとは思えません。本気で隠れたお母さんの知り合いすら感知してみせた私の感知を誤魔化せるならば、世界でもトップのスパイになれます。
「遊、あなたが何処を目指しているのか私には全く分からないわ」
「もちろん、歌って踊れて闘えて諜報戦もこなせる声優を目指してるわ」
例え声に関係ない物であろうとも、特技は多いに越した事はありません。目指せ、万能声優。
「お願い、それは既に声優じゃないって気付いて!」
何だか必死な親友様。あまり大声でそういう発言をしてほしくえりません。
それから3日が経過しても不審者が来る事もなく、元の日常が戻ってきました。
「あれから何も無いわね。そろそろ何らかの事件が起きても良さそうだと思わない?」
「友子、不吉な事は言わないでくれる?」
登校中にフラグを立ててくれた親友様に釘を刺します。でも、それは一足遅かったようです。
「学校周辺に人が沢山集まってるわ。用心した方が良さそうね」
「まだ学校遠いのに・・・ああ、ごめんなさい。私、まだ遊を人間だと思ってたわ」
「私は紛れもなく純粋な人間よ、ゲームのキャラではないからね!」
仕事の都合上ゲームのキャラになったりはしますが、基本的には人間です。
「その談義は置いといて、私が探るから遊は少し離れた場所に待機していて」
「そうね。もしも正体がバレたなら、私は迂闊に近付けないわ」
あの不審者が私の事を探っていたマスコミだと仮定した場合、その可能性は否定出来ません。
「本当に意外だったわよね」
「まさかうちの高校に芸能人が居るなんてね」
通り過ぎた女子の会話から、門の前に集ったのがマスコミだと確定しました。隠れて様子を伺うと、カメラマンやレポーターが集い何人かの生徒が取材を受けているのでした。




