第三百二十七話 監視への対策
地下鉄の中では時折こちらを見てヒソヒソ話す人が散見されました。軽めの変装なのでバレてたかもしれません。しかし話しかけて来る事は無かったので、特にトラブルもなくテレビ局に到着しました。
仕事の内容はドラマのチョイ役で出演と脳力試験の収録という物で、特筆するべき事もなく無事に終えて事務所に戻りました。
「燃えた・・・燃え尽きた」
社長室には、真っ白な灰になった桶川さんが机に臥せっていました。まるで激闘を終えたばかりのボクサーのようです。
「桶川さん、生きてますか?」
返事がありません。桶川さんは精神力を使い果たし、活動を停止してしまったのでしょう。
「返事がない。ただの屍のようだ」
「ちょっ、生きてるわよ!書類は全部仕上げたから、明日から一緒に出るわよ!」
あの山を一日で処理したようです。日頃から書類を処理していればあのような目に合わなくても済むのですが、それが出来ない故のあの惨状なのでしょう。
「実は、学校付近に不審な動きがありまして桶川さんと合流するのは危険かもしれません」
私は学校の周囲に探るような動きをする人がいる事を伝えました。桶川さんも只事ではないと感じたようです。
「それなら私が近付かない方が良いわね」
「桶川さんの顔は知られていますから。その方が良いと思います」
大手芸能プロの社長である桶川さんの顔は広く知られています。そんな人が学校付近で目撃されて場合、近くに芸能人が居ると思われてしまいます。
それを防ぐ為に当面は少し離れたファミレス駐車場で落ち合う事となり、桶川さんは車から極力出ないという事で合意しました。
いつまでも桶川さんについてもらうのではなく、専属のマネージャーが就くのが最良なのでしょう。しかし、秘密を守れるのかという条件があるため、未だ桶川さんのお眼鏡に叶う人材は居ないそうです。
桶川さんが現場に出たいから見つけようとしていないと疑うのは穿ち過ぎでしょうか?
「今日もいるわね、あそこの木陰にもいるわ」
「直接見ても分からないわよ。遊の索敵能力は異常ね」
翌朝も不審な人達は高校付近に陣取っていました。素人では見つけられないレベルなので、セミプロ以上の腕前です。
「友子も習得する?手続きはこれを見れば載ってるわよ」
「・・・そんな技能を教えるユー○ャンに呆れるべき?それとも、本当に習得する遊に呆れるべき?」
「一般むけに教えているのだから、誰でも習得出来る技能だと思うわよ。気功のように特殊な技能という訳では無いのだから」
普通に通信教育で教えているのです。習得出来ないものは載せない筈なので、頑張れば誰でも習得出来るでしょう。
「まぁ、遊の異常さは今更な話題だしね。それで、悪なりなんだけど・・・」
その後はアニメの話をしながら登校しました。鬱陶しい監視者達、どうにかしてほしいものです。




