第三百二十五話 不穏な気配
映画の撮影も終わり、夏が近づいてきました。学生の楽しみな夏休みはもうすぐです。しかし、その前に越えなければならない試練が待ち受けています。言わずと知れた期末試験です。
「九州に炭田を発見したのって誰だっけ?」
「グラバーよ」
「シアンとカリウムの化合物って・・・」
「青酸カリ」
詰め込みで試験対策に余念がないクラスメートから質問が飛び、それに答えを返します。
「遊は良いわね。いつも余裕で。ブロッサムとフラワーの違いって何だっけ?」
「ブロッサムは果実の花を指すわね。普段から復習してれば慌てる事はないのよ。大体、試験は身に付けた学力を測る物で付け焼き刃で一時的に覚えた記憶を測る物ではないわ」
親友の友子もその例に漏れず付け焼き刃で対策中です。正論は正しいから通じるという物ではありません。
「川底から湧く温泉がある六合村って何県なの?」
「群馬県の尻焼温泉ね」
「縮退炉の燃料って何だっけ?」
「氷の同位体結晶、通称アイス・セカンドよ」
化学・地理・英語など、浴びせられる質問の教科はまちまちです。あれ、変な質問があったような気がするのですが。
「遊がいると自分で調べる手間が省けるから勉強が進むわ」
「私は辞典じゃないわよ。ちゃんと自分で調べなさいよ」
下校しながらも質問する友子に釘を刺します。自分で調べないと身に付かないのが勉学です。
「それはそうとして遊、気付いたわよね?」
「学校の周囲にいた不審な人の事かしら?」
高校を窺うようにしていた人がいたのです。気配で感知したので人相風体はわからなかったのですが、行動が張り込み中の刑事や探偵のような印象を受けました。
「学校がターゲットかどうかわからないし、ましてや遊が目当てとは思わないけど気を付けてね」
「そうね、ありがとう。でも、目当ては学校よ。囲むように4人いたもの。誰が目当てかはわからないけど」
あの配置では学校が目当てと断定しても支障無いと思います。私が下校しても変わらない為、ターゲットが私とは思いえません。
「囲むように4人って、どうって調べたのよ?」
「えっ、気配察知でよ。半径5キロくらいなら探れるわよ。いつもやっていると疲れるからあまりやらないけど」
映画の撮影で気功の扱いも上達しました。そのお陰で探知範囲が広くなり使い勝手も良くなりました。
「索敵も出来るのね。罠察知や解錠を覚えたらシーフ系のジョブにつけるわよ」
「あら、罠の察知と解除は出来るわよ。爆弾の解体も米軍で覚えたし、解錠も通信教育で習得済みよ」
米軍兵士の皆さんとはバレンタインの件で仲良くなり、技術を色々と教わりました。とっても役にたってます。




