第三百二十三話 対戦終了
今日は珍しく登校出来る事になりました。と言っても午前中の半日だけで、午後から映画の最終シーンを撮るため早引けしなくてはなりません。
「おはよう、何だか久し振りねぇ」
「おはよう、友子。最近便利屋扱いされて忙しいのよ」
暇より良いとはわかっているのですが、本業以外の仕事ばかりというのが悩みの種です。もっとも、デビュー2年目のペーペーがそんな贅沢を言えば炎上は不可避となるのですが。
「遊、何だか雰囲気変わった?前と違うような気がするわ」
「撮影に必要になって気功術を修めたからかしら。その影響かもね」
「普通映画の撮影で気功術を修めたりしないわよ・・・」
それに関しては私のせいではありません。全ては演じる対象の技を全て習得するよう言った監督さんが悪いのです。
それはさておき、周囲に人が多い登校中にユウリ絡みの話は出来ないので適当なアニメ談義をします。談義と言っても一方的に友子が話すので私は聞き役に徹します。
久し振りに入った教室では映画の事が話題になっていました。主演の変更や本職の格闘家と戦う事は宣伝の一環として公表されているのです。
「ユウリさん、本職の格闘家と闘うんでしょう?」
「いくらシナリオがあるといっても心配よね」
格闘シーンにシナリオなんて代物御座いません。ガチで闘っております。しかし、まだそこまでは報道されていないようです。
「酷いよなぁ、ユウリさんの顔に傷でもついたらどうするんだ?」
「そうしたら俺、絶対報復に行くな!」
私は傷ひとつついてません。相手の方がボロボロになってます。むしろ、一方的に傷ついているのは格闘家達のプライドだとスタッフ三の間では囁かれています。
「遊、本当の事は話せないわねぇ」
「色々な意味で言えないわ」
あなたたちが心配してくれてるユウリは格闘家相手に無傷で全勝してますなんて、口が裂けても言えません。
教室の話題に冷や汗をかきながら受けた午前の授業は終了し、午後は最後の闘いが待っています。
赤い軍服を着た将校さんの猛攻が私を攻めました。気を手に纏わせての攻撃や、飛んで空中からの攻撃を容赦なく繰り出してきました。同じように手に気を纏わせて迎撃したり、対空用の蹴りでカウンターを喰らわせたりして凌ぎます。
将校さん、か弱い声優に対して全身に気を纏って飛んでくるなんて大技仕掛けるのは良心が痛まないのでしょうか。
ジャンプでかわして隙だらけになった背後からしゃがみキックの連打した後、投げ飛ばしてKOしたところで監督さんの声がかかりました。
「ハイ、カットOK!後は細かいシーンの撮影だけで終了だ!」
監督さんが出したオッケー宣言にスタッフさん一同が沸きました。しかし、撮影に区切りがついたというのに格闘家の皆さんは落ち込んでいます。
「結局全敗か・・・」
「せめて1勝だけでもしたかった・・・」
「一切手抜きしてなかったんだがな・・・」
どうやら、まだ負けた事を気にしていたようです。格闘家さん達は体を鍛えていても、精神面は豆腐並みの柔らかさなのでしょうか。
「本当に精神弱いわねぇ。悪口書かれて落ち込む携帯小説のクリエイターより脆弱なんじゃないの?」
放っておいて!あれ本当に落ち込むから!(by天の声)
作者のメンタルは豆腐です。




