第三百二十二話 同じ穴のムジナ
「毎回思うのだけど、ユウリさん本当に声優?幼い頃から闘いを仕込まれた格闘エリートだと言われた方が納得するのだけど・・・」
撮影を見ていたスタッフさんがしみじみと言いました。両親は幾つもの戦場を蹂躙してきた過去があるので、ある意味エリートだと言えるかもしれません。
「筋書きのある映画の撮影だから勝てているに決まっていますよ。か弱い女子高生にそんな事を言うと傷つきまよ?」
「「「「か弱いという言葉を辞書で調べろ!そして全国のか弱い女子高生に全力で謝れ!」」」」
他のスタッフさんや格闘家の皆さんに、声を揃えて反論されました。まるで私がか弱い女子高生ではないような言い草です。
「大体、気功術を奥義まで極めてる女子高生のどこがか弱いのだ?」
「俺の竜巻回転脚、気功波で迎撃されてKOされたもんなぁ」
体育座りでいじけるケインさん。大の男が必殺技を必殺技で迎撃されたくらいで落ち込んではいけません。
「人間、やれば出来るものです。ラスボス役の人、今日は来てないですね。お疲れ様でした」
今日出来る撮影は終わったようなので、落ち込む暑苦しい方々は放置で帰宅します。一流の格闘家ともあろう方々が、あんなにメンタル弱くて大丈夫なのでしょうか。
翌朝、家の庭で映画用の練習をしていると由紀が見に来ました。
「おはようお姉ちゃん、何をやっているの?」
「おはよう、ちょっと気功波を素早く正確に打ち出す練習をね」
気を全身に纏って頭から飛んでくる人には、飛び道具での迎撃が最適だと思うのです。なので対抗策の練習をしているのです。
「お姉ちゃん、遠い所に行ってしまったのね」
「由紀、姉を人外みたいに言わないで!気功くらい練習すれば出来るわよ!」
実際あの映画の出演者は出来ていました。手や足を伸ばすよりは簡単に習得出来ると思います。
「まあ、お姉ちゃんだしね」
諦めたような由紀と家に入り朝食をとります。何故かお母さんは上機嫌でした。
「遊、気功を身につけたみたいね。流石私の娘だわ」
「お母さん、知っていたの?」
気功を習得したことはお母さんには言っていません、見せたこともないので知らない筈なのです。
「庭で練習してる気を感じたわよ。遊も修練を積めばそれくらい出来るわ」
流石はお母様です。私などまだまだ未熟みたいです。この会話を聞いていた由紀は私に頭を下げました。
「お姉ちゃんごめんなさい、私が甘かったわ」
本当の人外が誰かを知った由紀が謝罪しました。少し気功を使えるようになでた私など、まだまだ普通の存在だと認識してくれたのでしょう。
「うん、由紀もお母さんの娘なのだから同類なのよ」
結局、この家の家族は全員チートです。




