第三百十六話 またもや代役
そんなある日、朝食を食べながらテレビを見ていると話題になっていた新作映画の情報が流れました。「新作映画『路上の闘士達』製作中止か?」の文字が画面に踊ります。
「話題の新作映画、路上の闘士達の撮影が暗礁に乗り上げました。主演の女優がいきなり役を降りてしまい、後任が決まらないそうです」
アナウンサーの言葉に嫌な予感が沸々と沸き起こります。また皺寄せがこちらに来なければ良いのですが。
「芸能界、最近大変ね。私はお姉ちゃんが沢山テレビに出るから嬉しいけど。でも、お姉ちゃんと直接会う時間が減るのは嫌かな」
由紀が呑気なコメントをしていますが、当事者の私にはため息が途切れなくなるような状況なのです。
朝から仕事のため、電車に乗り込む。身動き出来ない程の超満員。途中の赤い羽駅てはホームの端から端まで人が溢れて、半分も乗車出来ない状況です。
そんな満員電車に乗ってヘトヘトになりながらも桶川プロに到着。ユウリ用の部屋でユウリにチェンジします。エレベーターで最上階に上がり社長室へ。
「ユウリちゃん、新しい仕事が入ったわ。なんと映画で主演よ!」
「それってもしや路上の闘士達ですか。今朝ニュースで見ましたよ」
嫌な予感が的中してしまいました。こういう予感は当たらなくても良いのですが、何故か高確率で的中してしまうのです。
「まだ返事はしていないから受ける受けないはユウリちゃん次第だけど、断る方が良いかしら?」
「とりあえず映画の内容と、女優さんが投げ出した理由を教えてもらえますか?」
映画は腕に覚えのある武道家達の格闘ものです。主人公の夏麗さんは主に足技や気功術を使って戦うという設定です。その夏麗さんが世界各地を回りライバル達との戦いを勝ち抜くというストーリーです。
桶川さんから聞いた詳細によると、女優さんが逃げ出した理由は相手役のキャストが現役の格闘家で、シナリオ無しのバトルだったからだそうです。
武術の素養のない女優にいきなり武道家とガチで闘えと監督さんに無茶振りをされ、それを事前に告知されていなかった為降板したそうです。
そんな要求を飲む女優さんなどほぼ居ないでしょう。役を投げ出されるのも当然です。
「迫力のあるバトルシーンを撮るためにプロの方々を呼んだらしいわ」
「それって、逆効果になると思うんですけどねぇ」
桶川さんは不思議そうな顔をしていますが、武術をかじった人間ならすぐに気付くと思います。
「そんなの誰がやったって投げ出すわよ、私が受けるわ」
その監督さんをどうにかしないと、更に被害が拡大しそうです。私ならばお母さん直伝の護身術でどうにかなりそうですし、ここは一肌脱ぐとしましょう。




