第三百十五話 多忙な日々
お父さんとお母さんの予想額を遥かに超える値がついてしまいました。鑑定士の方はこれでも最低限でオークションにかければ更に跳ね上がると言っていましたが、そこまでの物なのかサッパリわかりません。
「両親も喜ぶと思います、ありがとうございます」
「では、番組を最後まで楽しんでください」
私の鑑定が終わり、視聴者からの鑑定品が紹介されていきます。韮山反射炉で作られた鉄人のフィギュアとか、村正の刺身包丁とかツッコミ所満載の鑑定品ばかり出品されていました。
「ユウリさん、今日はどうでした?」
「色々な意味で楽しませて貰いました」
司会の人とタッグを組んでツッコミを入れまくってしまいました。私にツッコませる為に品物を選んだのかと勘繰る程でしたが、私は急遽決まった代役なのでその可能性はありません。
「また今度ツッコミしに来て下さいね。また来週!」
司会の方に並んで笑顔で手を振りエンディングに移ります。かなり疲れましたが、無事に収録は終了しました。
「ユウリさん、お疲れ様でした。本当に助かりましたよ」
プロデューサーさんが笑顔でやって来ました。決まっていたゲストに突然のキャンセルされ、代役探しに苦労したようです。
「困ったときはお互い様ですよ。次の仕事があるので失礼します」
次の仕事はお台場。地下駐車場に急ぐと桶川さんが待機していました。収録で使用した鎧も後部座席に鎮座してシートベルトで固定されています。
「ユウリちゃん、こっちよ!」
急かす桶川さんに従い車に飛び乗ると、すぐに発進しました。次も急に入った仕事なのですが、最近スケジュール調整がキツイような気がします。
「最近飛び入りの仕事が多くないですか?」
「体調崩すタレントさんが多くてね。ユウリちゃんも気を付けて」
タレントさんが過労で倒れて代わりのタレントさんが動員される。予定外の仕事が入ったタレントさんが過労でまた倒れる。悪循環になっています。
「芸能界全体で早めに対策立てないと止まらないのではないですか、この循環」
「元凶はあそこなのよねぇ」
タレントが倒れたり引退したりと、人材不足をもたらしているのは1つの事務所のようです。具体的な事務所名は告げられませんでしたが、何となく察する事はできました。
「まあ、少し落ち着けば新人を当てはめたりして正常に戻るわ。それまで頑張ってちょうだい」
「倒れない程度に頑張るわ」
私まで倒れたら洒落になりません。その後予定していたトーク番組の収録を終え、その日は終わりました。
しかしその翌日から数日は、目が回るような忙しさが続きました。
「ユウリちゃん、クイズの解答者ヨロシク!」
「レポーターが来れないだって?あっ、ユウリさん、お願いいたします!」
「歌のお姉さんが救急搬送された?桶川プロに電話しろ!」
現場ではそんな感じだったらしいです。予定の仕事に加えて突発の仕事が入りまくり。スケジュール調整する桶川さんは疲労で幽鬼のようになっていました。
「ユウリさんは何でも出来るから頼りになるなぁ」
とある助っ人の現場でそんな事をプロデューサーさんに言われましたが、私は声優です。そこを忘れないで下さいね。




