第三百十二話 危険物の管理
6月に入り、しとしとと雨の降る日々が続きます。珍しく1日学校にいた私は、帰り際に友子から風呂敷包みを渡されました。
「これは何?」
「遊のお母さんに頼まれた物よ。中身は普通の金庫だから」
お母さんが友子に金庫を注文したとの事ですが、私はそんな話を聞いていません。疑問はありますが、友子が嘘をつく理由もないのでとりあえず受け取って鞄にしまいました。
「今日は購買に新商品が入るから寄り道するわ。遊も行く?」
「慎んで辞退させていただきます」
友子がうちの購買で買うものなんて、声優グッズに決まっています。行くどころか近寄りたくもありません。私は自分のグッズを売っている所を見て喜ぶ趣味はありません。
「あっ、もう行かないと。5時から販売で急がないと売り切れてしまうわ」
振り向きもせずに猛ダッシュで遠ざかる友子。まだ3時半なのて急ぐ必要ないと思うのですが、下手に問うと長々と解説を聞くことになるので聞き流します。
「ただいま。お母さん、友子からこれ預かったわよ」
家に帰り、鞄から唐草模様の風呂敷包みを取り出してお母さんに渡しました。物が金庫だけあって結構な重量があります。それをほぼ感じさせないこの鞄、突っ込みどころ満載ですが、出処が友子なので追求する気はありません。
「ああ、助かったわ。間に合ったみたいね」
「深刻みたいだけど、何を入れるのよ?」
手招きされてお母さんについていきめます。裏の物置小屋に入ると、台車に乗った金庫が引き出されました。
「この中身を入れ換えるわよ、そっちの金庫を開けて頂戴」
唐草模様の風呂敷包みを開けて中身を取り出します。少し大きな手提げ金庫のダイヤルを回し、蓋を開けました。お母さんが台車の金庫の鍵を開けると、悪寒が背中を駆け抜けます。
「それ、中身は何なの?凄く嫌な気配がする」
「さあ、何かは私も判らないわ。強いて言うならば、食べ物?」
食べ物がこんな邪気を放つなんて考えられません。食べ物の名を冠したナニカではないでしょうか。
「さあ、移すわよ。それっ!」
綺麗にラッピングされた箱を手提げ金庫に移します。入れた瞬間に蓋を閉め、ダイヤルを回して開かないようにしました。一瞬だけ見えたあの箱は見覚えがありました。2月に親友から貰った贈り物、友子からのチョコレートでした。
「危なかったわ、内部が腐食されている。考えうる最高の素材を使った金庫なのに半年保たないなんて・・・」
深度1000をクリアする最新鋭の原子力潜水艦に使われている特殊チタン合金を、宇宙往還機の外装に使われるスーパーセラミックでコーティングしていたとのことです。
「ノームルメスタという謎金属らしいけど、どれくらい保つのかしら・・・」
不安げなお母さん。その金庫ごと友子の鞄に入れておいたら保管出来るでしょうか。でも、それだと危険物を学校に持ち込む事になります。このまま金庫に封印が良いでしょう。




