第三百十一話 新人さんの正体
「な、何を言ってるのよ」
「昨日自己紹介したのに忘れたのですか?!」
桶川さんとフーちゃんは笑顔で誤魔化そうとしますが、笑顔がひきつっています。私を欺くにはまだまだ修行が足りません。
「冷や汗流しながら言っても無駄ですよ。絶対音感と完全記憶能力があるから、声紋が一致しないとすぐにわかったわ」
いくら姿と声が同じでも、声紋が違うのならば昨日紹介されてフーとゃんと目の前に居る少女は別人です。根拠を述べると2人はため息をつき呟きました。
「本っ当に規格外な子よねぇ」
「そんなスキルまで・・・流石ユウリさん」
高性能なのは仕様です。いい加減に慣れて下さい。
「フーちゃん、バレたからには話すわよ。いいわね」
「もちろんです、風奈もユウリさんになら言っても怒らないと思います」
了解をとった桶川さんの説明によると。この子は川島風華さん。昨日来たのは双子の妹で風奈さんです。
2人とも声優になりたいらしいのですが、両親が高校卒業まで待てと反対されているそうです。そこで双子が入れ替わり声優と学生をすることで勉強と声優を両立させることになりました。
「まさか1日でバレると思いませんでした。社長、大丈夫でしょうか?」
風華ちゃんが不安げに桶川さんを見ます。私に速攻で見抜かれたので正体を隠してやっていく自信がなくなったのでしょう。
「大丈夫よ、ユウリちゃんみたいな規格外な人は早々いないから。間違えてもユウリちゃんを物事の基準にしたらダメだから!」
「そうなんですね、わかりました!」
桶川さん、その励まし方だと私は超人か何かと間違えられそうなんですが?フーちゃんもその励ましに納得しないでほしいわ。
「まあ、そういう訳で交代で声優をやっていくからユウリちゃんもフォローお願いね?」
「よろしくお願いいたします!」
笑顔で頼まれ、深々と頭を下げられたら諾と答えるしかありません。私も訳ありな身の上なので、協力することには吝かではありませんし。
「わかりました、力になれる範囲でフォローさせてもらいます。フーちゃん、こちらこそ宜しくね」
桶川さんに強制連行されて声優になった私と違い、強い願いを持って夢を叶える為に頑張る女の子。出来る範囲で力になりたいと思います。
「でも、桶川さんの周りには特異な人が集まるわね。類友という奴かしら?」
「そうかも知れないわね。でも、もしそうならばユウリちゃんもその一員よ?」
「そんな事ないわよね。そうよね、フーちゃん!」
桶川さんの反撃にフーちゃんを見るも、彼女は無言で目を逸らしました。両手をついて崩れる私をよそに、2人は楽しそうに笑うのでした。
フーちゃんは本作の次の作品の主人公候補でした。
双子が入れ替わりを繰り返し高校生活を送りつつ声優をするという物でしたが、続けて似たお話になるのでボツとなりました。




