第三百七話 マスコミの待伏せ
「おいっ、あれを見ろ!」
「ユウリちゃんが!」
目当ての建物の入り口付近にいた数人の男女が駆け寄ってきました。カメラやマイクを持っているので、マスコミなのでしょう。
「ユウリさん、スラッシュ役はあなたで確定ですか?」
「難しい役だとの事ですが、意気込みを!」
次々にまくしたてる芸能レポーターたちの質問に答えずに歩きます。大体、答えようにも答える隙を与えず質問を重ねてくるので答えようがありません。
「朝霞さんと2人で30役をやるとの噂ですが!」
「朝霞さんとはどこまでいったんですか!」
「ユウリさん、本名は?」
どさくさに紛れて関係ない質問までしてるレポーター。こんな無礼な連中に情報を渡そうとは思いません。
「はいはい、落ち着いて下さい。詳しい話はこれから詰める予定です。内容についてはお話できません!」
桶川さんはそれだけ言うとレポーターをすり抜け建物へ入ります。私もすぐに続いたのですが、フーちゃんはレポーターの勢いに呑まれて遅れてしまいました。
「早くっ!」
「す、すいません!」
フーちゃんの腕を掴み、共にレポーターの魔の手から脱出すします。危うくフーちゃんが孤立してレポーターに捕まる所でした。
「マスコミから逃げるのはタイミングが大事だから、それを逃さないようにね」
まだ新米の私ですが、これくらいの助言なら出来ます。受付で入館手続きを済ませてエレベーターに乗りました。
「テレビで見ることはありましたが、あんなにキツイ物だとは思いませんでした」
「まあ、追いかけられるようになるかはフーちゃんの実力と運次第だけどね。ユウリちゃんみたいなのは例外だから」
「初めからして異常でしたから。未成年を問答無用で拉致するとか、どこの犯罪者ですか」
拉致した犯人を睨むと、目を逸らされてしまいました。口笛まで吹いて、漫画やアニメのよつえな誤魔化し方です。
「未成年者を拉致って、何があったのですか?」
「ほ、ほら!スタッフさんが待つ部屋に着いたわよ。お喋りは後で!」
誘拐の顛末を語る前に着いてしまいました。桶川さんはノックもせずにドアを開けて入ります。
「どーもー、桶川プロです。ユウリちゃん1人前出前に来ました!」
「私は江戸前寿司ではないのですけど・・・」
「ユウリさんがお寿司なら、絶対に特上ですね!」
仕事の話をする前に帰りたくなった私を誰が責められるでしょうか。いや、責められるはずがありません。
「と、とりあえず席におつき下さい」
「楽しそうだねぇ。3人ならMー1いけるんじゃない?」
ケラケラと笑っているおじさんの顔には見覚えがありました。このおじさんこそが、今回の元凶の原作者様です。




